教育フォーカス

【特集34】外国につながる子どもの支援の充実に向けた日本語学習と教科学習

第4回 まとめ

 第2回第3回 では、外国につながる子どもの日本語学習と教科学習の指導・支援について、公立夜間中学やNPOで指導・支援にあたる方々にお話をうかがいました。第4回では、うかがったお話を3つの観点から考えたいと思います。

当たり前と捉えていることを見直すことで、誰にとっても学びやすい環境をつくる

 1つめの観点は、外国につながる子どもの指導・支援を充実は、誰にとっても学びやすい環境の整備につながる、つまり、インクルーシブ社会(*)の実現に向けた一歩になっていくという点です。第2回で紹介した常総市立水海道中学校夜間学級では、外国籍の生徒が授業を理解できるように、具体物や映像を用いるなど、様々な工夫をした結果、日本人の生徒にとっても分かりやすい授業につながった、学びのユニバーサルデザイン化が進んだと、先生方は語っていました。

*「インクルーシブ社会」とは,すべての人が国籍や民族,人種,障がいの有無といった属性によって排除されることなく,当たり前の生活が保証される社会を指しています。

 多くの人が当たり前と捉えていることが、特定の人にとっては障壁になっているかもしれません。第3回では認定NPO法人多文化共生教育ネットワークかながわ(以下、ME-net)の活動についてお伺いしましたが、そこでは外国につながる子どもたちは、学校生活や進学など、様々な場面で困難を強いられており、それは決して本人の問題ではなく、社会の側に不備あり、そのしわ寄せが子どもに及んでいるというお話がありました。外国につながる子どもにとって不便や不自由となる仕組みが、学校や社会の中に存在していないか、見ていくことが大切であり、そのことが誰にとっても学びやすい環境の整備につながっていくと考えられます。

 また、第2回、第3回どちらでも、外国につながる子どもを特別な存在と見なすのではなく、その年齢相応の一人の人物であると捉えてほしい、ひとり一人とむきあうことが大切である、というお話がありました。そうした視点を持って意識や考え方を見直すことが重要と考えられます。

必要な情報を伝える仕組みをどう構築するか

 2つめの観点は、支援を必要とする人たちに、必要な情報を届けることの重要性です。第3回で紹介したME-netでは、高校入試に関する情報が乏しく、進学を諦めざるを得ない外国につながる子どもが多いことに問題意識を抱いた学校教員や地域の支援者が、進学ガイダンスを実施したことが、のちの活動につながっていきました。スタートの地点で適切な情報を得られなければ、十分な支援を受けられず、外国につながる子どもは社会の中で孤立してしまいます。実際、進学に関する情報やロールモデルの不足などにより、進学を諦めたり、進学先とのミスマッチにより中退をしてしまったりするケースは非常に多いといいます。

 情報発信の際には、外国につながる子どもの集住地域か、散在地域かによって留意すべき点が異なることも見えてきました。集住地域では、比較的、自治体による国際教室の設置などの支援やNPOの活動が活発であり、外国籍に限らず、外国につながる子どもの家庭の横のつながりなどもあって、情報は得られやすいと考えられます。ただそこでも、支援を受けることに積極的ではない人たちに対して、どのように働きかけていくかといった課題は残ります。

 一方、散在地域では、学校や地域の中に外国につながる子どもが少数であるため、予算や人材の確保がしづらく、できる施策に限りがあることから、情報が行き渡らない状況になりやすいといえます。第3回では、学校や地域の中に支援に熱心な教員や支援者が存在するかなど、ある種、偶然の出会いによって子どもの将来が大きく左右される場合もあるとのお話もありました。進学などに関する情報が十分に得られないと、子どもが将来のイメージを抱けず、学習への意欲を持てない場合が考えられます。

オンラインツールを活用し、支援や情報を届けやすくする

 そのような支援体制や情報提供の偏りをなくす解決策の1つとして、オンラインツールを活用した支援が考えられます。実際、その動きは大学や支援団体などにより始まっています。

 例えば、筑波大学では2020年から、茨城県内の中学校に通う外国人生徒を対象に、オンラインツールを活用して包括的に支援するプロジェクトを展開しています(澤田ほか、2021*1)。このプロジェクトでは、大学生がサポーターを務め、オンラインによる「取り出し型指導」により、日本語の基礎的な学習や、日本語と教科の統合学習、教科支援などを行っています。さらに、高校入試制度など、進路に関わる情報提供も充実させています。それらの情報によって、子どもや保護者は将来のイメージを持つことができ、自分のやりたいことを考え始めたり、学びの意欲につながったりすると考えられます。

*1 澤田浩子・井上里鶴・松崎寛・入山美保(2021)「日本語指導が必要な児童生徒のための遠隔支援における地域連携モデルー茨城県グローバル・サポート事業の試み」2021年度日本語教育学会春季大会,pp239-244

日本語が分からない期間の教科学習が抜け落ちてしまう

 3つめの観点は、支援の現場では、日本語と教科を統合した指導の難しさに直面していることです。教科の授業を理解できるようにするには、日本語指導と教科指導を融合させて行うことが有効といわれていますが、第1回で紹介した文部科学省の調査結果では、それができる人材の確保・育成の難しさが示されていました。

 水海道中学校夜間学級とME-netの支援においても、日本語指導と教科指導の両方の専門性を備えた人材の育成を課題として挙げていました。外国につながる子どもへの教科指導では、一人ひとりの日本語能力に合わせた指導が求められますが、そのためには日本語指導の知識を併せ持つ必要があります。そこで、水海道中学校夜間学級では、毎年、日本語教育の専門家を招いて研修を行い、教員が日本語指導の知識を身につけられるようにしていました。一方で、一般的な学校での国際教室では、人的・時間的なリソースが限られる中、そのような時間や労力の確保が難しい現状が見えてきました。

 また、外国につながる子どもに対する教科学習に関しては、日本語を学習している間に教科学習の機会を逃してしまい、ある期間に学ぶべき概念がすっぽりと抜け落ちてしまうという問題も挙げられました。例えば、日本語をほとんど理解できていない状態で小学生の頃に来日した子どもは、日本語を理解できていない期間の教科学習を積み上げられません。そのまま中学生になり、日本語を理解できるようになっても、空白となった小学校の学習内容に戻って学び直さないと先に進めません。そうした指導ができる教員や支援者に出会えずに、独力で取り組むのは容易ではないと考えられます。

日本語と教科の専門性を融合した指導を実現するために

 それらの問題から、日本語能力を身につけてから教科学習を始めるのではなく、あらゆる段階から日本語と教科学習を同時に学び進めることが重要だと考えられます。そうした指導を行うための人材の確保や育成が現実的に難しい状況を踏まえ、支援の現場からは日本語と教科の専門性を融合させた教材の開発が解決策になり得るという声が聞かれました。

 例えば、子どもの日本語の習得状況に合わせて各教科の単元の学習内容が解説されたり、つまずいた際に学齢を超えてどこまで学習を戻ればよいか単元や分野が提示されたりするなど,一人ひとりの子どもの日本語能力や教科学力に適切な出題や解説が行われる教材が有用な手段の一つであると考えられます。

 これからもベネッセ教育総合研究所では、外国につながる子どもをサポートする現場とともに教材なども含めた指導・支援の研究を進めていきます。

(担当:森下みゆき・小野塚若菜)

 

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