様々な場所で色とりどりに活躍している20代、30代。彼らのインタビューを通して、これからの社会で活躍し、「Well-being」に生きるためのヒントを探っていきます。
今回は、学生時代に、突出したITの能力を持つ人材の発掘・育成をする「未踏事業」で、卓越した創造力を持つと認められた人物だけが選ばれる「スーパークリエータ」に認定され、現在はマンガアプリを配信する株式会社マンガボックスでエンジニアを務める神武里奈さんにお話をうかがいました。
周囲の人々を巻き込みながら多くの人に「楽しい」を届けたい

- 神武 里奈
株式会社マンガボックス エンジニア
筑波大学情報学群情報メディア創成学類から、同大学院システム情報工学研究科知能機能システム専攻に進学。大学4年次に独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)が主催する「未踏IT人材発掘・育成事業」(以下、未踏事業)において、「未踏スーパークリエータ」に認定される。多くのハッカソンやコンテストに参加し、25以上の賞を獲得。2017年に株式会社DeNAに入社。現在は関連会社の株式会社マンガボックスに転籍し、エンジニアとして勤務している。
大学時代に技術力が認められDeNAのエンジニアに
学生の時に、未踏事業の「未踏スーパークリエータ」に認定していただきました。未踏事業とは、ソフトウェア関連分野で優れた能力を有する若い人材を発掘・育成する事業です。
所属する研究室の教授から「この事業に挑戦してみないか」と打診があったのは、応募締め切り前日。そこから一晩でアイディアを練り上げ、書き上げた企画書が育成事業に採用され、1年間ほどの育成期間で本格的にモノづくりの技術やノウハウを学ぶ機会をいただきました。
株式会社DeNA(以下、DeNA)に入社した動機は、未踏事業をきっかけに代表取締役会長の南場智子さんに自分が作ったプロダクトのプレゼンテーションをした結果「遊びにおいでよ」と声をかけていただいたことでした。短期間のインターンを経て、大学院卒業後、2017年に入社しました。
配属されたのは、マンガアプリ「マンガボックス」の製作チームです。入社1~2年目は、iOSアプリ開発を担当していました。DeNAでは、エンジニアも何を作るかを決める上流工程に参加しながらモノづくりをするという社風があります。エンジニアの業務をしながら、ユーザーに喜ばれ、かつ利益を生み出すプロダクトをどう作り上げるかという、ビジネスの知見を学ぶことができたのは、その後の私のモノづくり力の大きな糧となっています。
入社3年目に別のプロダクトの開発に半年ほど携わった後、「プロダクト・プロジェクトのマネジメントを担当してほしい」と声をかけられ、マンガボックスに戻りました。私は、何を作るかの意思決定から、それを作るためにどのような過程を経ればよいのかまでを考え、主導していきました。そうした経験を経て、マネジメントも楽しいけれど、実際に手を動かしていないとうずうずしてしまうことにも気づき、現在はマネジメントをサポートしつつも、再びエンジニア業務に軸足を戻しています。マンガボックスは2020年に株式会社としてDeNAから分社化し、私も転籍という形で異動しました。
プログラミングと出合う、きっかけはゲーム
幼い頃からゲームが大好きだった私がモノづくりを意識し始めたのは、筑波大学で情報学を学び始めてからです。正直に言えば、筑波大学情報学群情報メディア創成学類を志望したのは、具体的に情報学で学びたいことがあったわけではなく、学部名のカッコよさにひかれたというゆるいきっかけでした。また、取り寄せた大学案内の最初のページに、株式会社ポケモンの代表取締役社長である石原恒和さんからのメッセージが掲載されており、ポケモンが大好きだった私にとって同大学を志望する大きな決め手になりました。このように、高校生までは、将来何になりたいかを明確に考えていたわけではありません。「パソコンを使いこなして、ゲームが作れたらいいな」くらいのイメージでした。
本格的に受験勉強を始めたのは高校2年生の後半と、スタートは早い方ではありませんでした。将来何になりたいかは明確ではありませんでしたが、負けず嫌いの私は、受験勉強もゲーム感覚で取り組み、現状の成績から、どうすれば効率よく得点を上げることができるかを考えながら勉強しました。
今の仕事は、受験勉強のように成績を競うものではありません。しかし、マンガアプリは、競合他社がひしめき合っている世界です。自社アプリの利用者数を伸ばしたいという負けず嫌いな気持ちも、開発のモチベーションになっています。
何より仕事の一番の面白味は、自分が「楽しい」と思ったものや、ユーザーが求めているものを、プログラミングを通して届けることです。マンガボックスは、業界の中でも早い段階でマンガの電子化に乗り出したアプリケーションです。当初は、週刊誌に掲載されたマンガをアプリで読めるようにする体験を提供することが喜ばれていましたが、連載しているマンガの途中の話からしか読み始めることができないため、ユーザーからは不満の声が上がっていました。そこで、よりよい読書体験を提供するために、ユーザーがアプリをインストールした時点でどのマンガも連載の第1回から続けて読むことができるように、アプリのUXを変えました。
リリースしてから8年目になる今、このようにUXを変えることは容易ではありません。そのため、開発言語が古い部分を改善するなど、プロダクトを迅速に提供できるように工夫も行っています。よりよいモノづくりを常に目指し続ける環境で働くことができ、毎日とても充実しています。また「楽しい」にもゴールはありません。どこまでもそれを追求していきたいと思います。
友だちを巻き込み楽しいことを
共有するのが大好きだった子ども時代
「楽しい」を届けられるプロダクトを開発するために、チームでのコミュニケーションを大切にしています。チームメンバーとの議論から、新しい企画につながることもよくあります。
そうした私にとってDeNAは、とてもよい環境でした。横のつながりが強く、コミュニケーションがとりやすい職場だからです。例えば、社内では様々な勉強会が開催され、他部署の社員とも意見交換ができ、部署を越えて気軽に相談をすることができます。自ら積極的に他部署の方と交流することで、別のプロダクトでの仕事の機会を得られることもあるため、これからも人とのつながりを大切にしたいと感じています。
たくさんの人と広く関われる性格は、親の仕事の関係で、幼・小・中学校時代に何度も転校を経験した中で身についたと思っています。転校先では、いつも自分から一緒に遊ぼうと声をかけていました。自分が楽しいと思ったことを、友だちにも知ってほしいとの思いが強かったのかもしれません。小学生時代の放課後には自宅に友だち10人くらいを呼んで、狭い部屋にぎゅうぎゅうの状態でゲームをしていました。学生時代のアルバムを見ると、たくさんの友だちと写っている写真が多いです。
もちろん、人との関わりの中で、嫌な思いをしたり、けんかをしたりすることもあります。ですが、人には必ず良いところがあるという考えを持っているので、その感情を引きずることはありません。思ったことを素直に言葉にして伝えることで、良い関係を築けるよう心がけています。
プログラミングにこだわらず
「楽しい」を届けることにどんどん挑戦したい
現在は1日8時間程度を仕事に充てています。時には徹夜で作業をすることもありますが、つらいと感じることはありません。時間を持て余すのは好きではなく、自分が成長するためにはもっと忙しく、もっと厳しい環境で仕事をしたいとも思うくらいです。趣味を仕事にできているので、働いているという意識が薄いのかもしれません。
仕事のほかに、自分自身の「楽しい」を追求するため、年に数回のハッカソン(IT技術者がチームを組み、短期間に集中的に開発作業を行うイベント)やコンテストに参加しています。また、そこでの実績を生かして、技術的なカンファレンスにて英語でスピーチしたり、技術記事の執筆をしたりすることにも挑戦しています。それらの活動は、自分がこれまで積み重ねてきたことが社会に認められていると実感できる場です。また、副業として動画製作を通じた創作活動もしています。
私は、これまで技術力を伸ばしたいというよりも、モノづくりのために必要な技術を身につけてきました。本業で身につけたプログラミングや副業のために学んでいる動画編集もモノづくりのための手段の1つです。もしも、「楽しい」モノづくりをするために、ほかの手段が必要なら、すぐ違うことを始めるかもしれません。どんな手段であれ、「楽しい」を広げるプロダクトを社会に届け続けるよう挑戦していきたいです。そして将来的には、自らの手で新たなビジネスを生み出すモノづくりをしていきたいです
小中高での勉強の内容そのものが今の仕事に直接生かせるわけではありませんが、そこで身につけた学ぶ力は社会人になっても役に立っていると感じています。例えば、新しい情報をキャッチアップするスピードは、早ければ早いほど良いと思いますが、そうした力は学生時代の日々の勉強で身についてきたと思います。学生の皆さんには、今、勉強していることは何らかの形で将来につながると伝えたいです。
編集後記
大学でモノづくりに目覚めたという神武里奈さん。積極的に人とつながって行動していく力は幼少期から醸成されていたように感じます。プログラミングを学んだことで「楽しい」をモノづくりにつなげる面白さを知り、さらにそれを広げる活動を社内外にも広げていると感じました。手にした技術がプログラミングでなく違うものだったとしても、同じように目標を達成していけたのではないでしょうか。今後も新しい手段に手を伸ばして活動していきたいと楽しそうに語る姿が印象的でした。
2021年7月12日取材
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