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新しい時代のwell-being 各界で活躍する20代・30代に聞く

 様々な場所で色とりどりに活躍している20代、30代。彼らのインタビューを通して、これからの社会で活躍し、「Well-being」に生きるためのヒントを探っていきます。
 今回は、株式会社manmaの創業者である新居日南恵さんにお話をうかがいました。

誰も着手していない社会課題に信念を持って取り組んでいくことが自分の想いを世界にひろげる

新居 日南恵(におり ひなえ)
  • 新居 日南恵 におり ひなえ

    株式会社manma 創業者
    1994年生まれ。東京都出身。慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、同大学院システムデザイン・マネジメント研究科を修了。大学1年時の2014年に任意団体manmaを立ち上げ、2017年に株式会社化、外資系コンサルティングファーム勤務を経て、現在はクックパッド株式会社コーポレートブランディング部所属。

様々な結婚や家族の形を「家族留学」で体験

 結婚や子育てというライフイベントに対して漠然とした不安を抱えながらも、情報は自分の家族を中心とした狭い範囲でしか得られないという若い世代は少なくありません。そのため、結婚や子育てには、具体的にどのような喜びや苦労があるのかを知ることなく、いきなり当事者になってしまうことに、疑問を持つようになりました。進学先や就職先を選ぶ際には、候補先の情報を調べたり、実際に見学したりして、様々な選択肢をよく知った上で自分に合うものを選んでいるはずです。それと同じように、結婚や子育てにおいても情報を幅広く得た上で選択できれば、より素敵な家族をつくり上げられるようになるのではないか。様々な結婚や家族の形を理解し、自分に合った将来を描けるようにしたいと思い、2014年、大学1年生の時に女性のキャリア支援をするmanmaを立ち上げました。

 設立当初は、結婚した方や子育て中の方に話を聞いたり、座談会を行ったりしてウェブサイトに記事を掲載していました。ある時、活動に協力していただいた方から、「そんなに子育てに興味があるのならうちに来てみない?」と誘われ、子育てを体験させていただくことになりました。

 公園で子どもと遊び、ママチャリに乗せて自宅に戻り、また遊び、一緒にご飯を食べる、という子育て中のご家庭での「日常」を過ごしました。日頃感じたことのない疲れがどっと出て、それまで取材でママやパパから聞いていた「平日の夜、仕事を終え自宅に帰ってきてから子どもと向き合うのが本当に大変」という言葉の意味を真に理解したような気がしました。

 そうした現実の結婚や子育てのワンシーンを、学生などの若い世代が経験できる機会があるとよいのではないか。そう考え、これまで取材などに協力してくださった方の家庭に、manmaのほかの学生メンバーにも体験させてほしいと依頼。メンバー内で何回も試行した後、2015年1月に、学生が子育て中の家庭の日常生活に1日参加し、生き方のロールモデルに出会う体験プログラム「家族留学」を事業として始めました。

チームで目標を共有し行動する充実感

 manmaで「家族留学」の事業を始めてよかったと思えることの一つは、自分とは違った家族の形を見ることができ、私自身の結婚や子育てに対する考え方が柔軟になったことです。この事業を通じて、コミュニケーションを密にとって楽しく過ごしている夫婦や仲の良いステップファミリーなど、多様な家族のあり方を知ることができました。素敵だと思える家族像が描けるようになり、学生が前向きに結婚や子育てを捉えられるかもしれないという実感を得られたのです。

 もう一つは、同世代の学生から「『家族留学』を経験できてよかった」という声をたくさんいただけたことです。加えて、不妊治療でつらい経験をされた方からは、「若い時にしっかりと結婚や子育てについて考える機会があるのはよいこと」との言葉をいただきました。体験者や受け入れてくださる家族の方の言葉から、この事業が社会のためになっていることを実感でき、それを原動力としてさらに力を入れていきました。

 とはいえ、自分のアイデアからmanmaは走り始めたので、私の想いに共感してくれる人が集まってくれた後も、何でも自分でこなそうとしていました。そのため、メンバーが、自分はmanmaに必要とされていないのではと感じて辞めてしまうこともありました。そうした状況が続くと、社会的に意義のある事業を目指していても、チームの不安定さが活動に表れてしまいます。

 このような経験を重ね、メンバーと協力して事業を進める重要性が分かってからは、チームの中で何をやるのかを考えるワークショップを月1回実施し、メンバーが今、何を思っているのか、何に力を入れたくて、何が課題だと感じているのかを共有しています。こういった取り組みを続けるうちに、メンバー全員が、10年後のmanmaの姿や、manmaの事業によって変化する世の中を、自分の言葉で語ることができるようになりました。私だけでなく、メンバー全員がmanmaのミッションを背負っていると感じるようになり、私は大きな充実を感じました。

 また、「家族留学」が広まったことをきっかけに、政府の様々な委員会で発言する機会をいただくこともできました。内閣府の地域少子化対策重点推進交付金の検討会では、結婚や子育てを体験型で学ぶ意義を説明したところ、複数の自治体で「家族留学」を行うことになり、manmaのミッションをひろめることにつながりました。

ワークショップ参加がきっかけで挑戦する楽しさを知る

 社会活動に興味を持っていたことから、高校1年生の時に塾の先生から認定NPO法人カタリバの高校生向けワークショップを紹介され、参加するようになりました。学校外の集まりは初めての経験だったので、参加するかどうか1週間悩みましたが、思い切って申し込みました。

 そのワークショップはとても楽しくて、ほかのワークショップにも参加するようになりました。初めのうちは緊張しましたが、次第に興味があるイベントには、参加を悩むより、まずは行ってみようという考えに変わりました。そのうち、イベントやワークショップを企画する側に加わるようになり、それらの内容を考えたり、発信したりするのが楽しいと思えるようになったのです。

 慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス(SFC)が主催する高校生向けワークショップ「SFC未来構想キャンプ」にも参加しました。そのキャンプは、いくつかのワークショップに分かれて、全国の高校生と語り合い、アイデアを生み出すという内容でした。

 そこで、私はなんと優秀賞をいただくことができました。「自分のことを評価してくれる場所があるんだ!」と初めて感じた大きな経験だったと思います。その後も様々なイベントやワークショップに参加するたびに自身の成長を感じ、次は何に挑戦しようかと前向きな考え方が身についたと思います。

6年間の活動を経て社会課題を解決するための新たな挑戦へ

 大学院修了後もmanmaの活動を続けてきましたが、2020年に代表を新しい人に引き継ぎ、今は創業者の立場で関わっています。

 6年ほどの活動の中で、自分が抱いていた課題に取り組むことができ、「家族留学」をひろげることもできました。さらに事業を拡大することも考えましたが、ここでもう一度爆発するには自分の中にエネルギーが足りないと感じました。

 また、若手社会起業家の会議などに呼んでいただいた際に、同じ課題をグローバルな視点から解決しようとしている人たちがいることも知りました。manma は、現在、株式会社ですが、N P Oが行うような非営利の社会活動が中心だったため、自分の想いをより多くの人に賛同してもらい、結果的に事業をよりひろげていくためには、私自身の物事の見方や考え方をより柔軟にする必要があるのではないかと思っています。

 現在の一番の関心事は、どのようにしたら社会課題に取り組む人の声が、政策に取り入れられるようになるかについてです。そのため、社会課題の解決を実践するシンク・アンド・ドゥ・タンク(課題解決の方法の提案に加え、自ら分野で活躍する実践家とネットワークを結び、アクションを起こしていく集団)に興味を持っています。

時にはアドバイスを聞かないこと
一度始めたらやめないこと

 解決しなければならないけれど、まだ誰も着手していない問題に、信念を持って取り組み、前に進んだという経験が、私を突き動かすモチベーションとなっています。私がmanmaを始めようとした時、「1度就職して、社会を知ってからのほうがいい」と何人もの人からアドバイスを受けました。もちろん、その順序がよい場合もあますし、そうでない場合もあります。もし就職してからmanmaを始めていたら、若い世代が「家族留学」するというアイデアは出てこなかったと思います。

 周囲からアドバイスをもらった時には、それが何を前提条件としているのかをよく考え、時には聞かないという選択をすること。そして、一度始めたらやめないこと。走り続けている限り失敗はしないという信念を持ち、あるべき理想やあるべき姿を変えないことが社会課題に取り組むための秘訣だと思っています。

編集後記

自分のアイデアを事業として立ち上げ、同じような想いを持つ人を巻き込みながら、株式会社にまで成長させていった新居さん。大学1年時から自ら行動を起こして「家族留学」を立ち上げた、その実行力には圧倒されました。さらなる活躍の場を探してmanmaの経営をいったん離れたという潔さにも新居さんのパワーを感じます。笑って話されていた「人と同じ量の水がコップに入っていても、足りないと考えるタイプです」という言葉は、彼女の底知れぬモチベーションを表現していると感じました。

2021年6月18日取材

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