「外国にルーツを持つ子どもたちが直面する就学問題」フォーラム
多文化共生センター東京編【前編】

「外国にルーツを持つ子どもたち」が学校に行けないという状況。なぜこのようなことが起きているのか、どのようなことが「問題」なのか。そして、「外国にルーツを持つ子どもたち」が輝くことのできる社会とはどのようなものなのか。 外国にルーツを持つ子どもたちの高校進学支援をサポートしている認定NPO法人、「多文化共生センター東京」代表理事の王慧槿さんに、お話を伺いました。

グローバル化って何?

いま日本社会が立ち向かっているグローバル化。
  実際、地域や学校、企業などの組織でも外国人の存在はまったく普通のことになりつつあります。

いま東京、神奈川、千葉、埼玉だけでもおよそ20,000人の外国籍の子どもたちが公立小中学校に通っています。しかし、現状の教育制度では「学びの場」を得ることが困難な「外国ルーツ」の子どもたちがいます。

日本のグローバル化のために本当に必要なことって何でしょうか?
      英語を話せること?
      文化の違いを理解すること?
      コミュニケーション能力?
CO-BOは学びに関する社会問題を高校生や大学生とともに考えていくプロジェクトですが、グローバル化の本質や課題も、実は学びの現場から垣間見えてきます。

今回のCO-BOフォーラムでは、日本にいる「外国人」の現状や「外国にルーツをもつ子ども」とはどんな子どもたちなのか、また彼ら・彼女らが直面している就学問題について、多文化共生センター東京代表の王さんの話をもとに、まとめています。

今や9割を超える日本の高校進学率。
一方で、その実態すらつかめていない「外国ルーツ」の子どもたちの高校進学率。この“差”が生まれる背景に迫ります。

日本で暮らす「外国人」って、誰のこと?

みなさんには「外国人」の友達がいるだろうか。

親友が外国人という人、違うクラスにいるよという人もいれば、あまり身近な存在ではないと答える人もいるだろう。王さんはまず、どれだけたくさんの外国人が日本に住んでいるかを資料とともに説明してくれた。

地域によって状況は異なるが、日本全体で見れば日本の在留資格を持つ外国人は200万人を超えている。47都道府県のうち200万人以上の人口がいる都道府県は17県しかないと聞けば、「200万人」という数字が決して少なくないということがわかる。

「日本人」と「外国人」との違いはどこにあるのだろう。

その人の話す言語や見た目、出身国などの違いと考える人も多いだろう。そこでまず、「日本人」と「外国人」の定義を国がどのように定めているのかを見てみよう。

まずは「日本人」。昭和25年公布され、その後何度も改正を重ねてきた「国籍法」の第一条には「(この法律の目的) 第一条 日本国民たる要件は、この法律の定めるところによる。」と書かれている。つまり「国籍法」に書かれている要件を満たす者を、国は「日本国民である」と定義しているのだ。では「国籍法」の中から、日本国民の要件について書かれている部分を抜き出してみよう。

第二条 子は、次の場合には、日本国民とする。
一、出生の時に父又は母が日本国民であるとき。
二、出生前に死亡した父が死亡の時に日本国民であつたとき。
三、日本で生まれた場合において、父母がともに知れないとき、又は国籍を有しないとき。
第三条 父又は母が認知した子で二十歳未満のもの(日本国民であつた者を除く。)は、認知をした父又は母が子の出生の時に日本国民であつた場合において、その父又は母が現に日本国民であるとき、又はその死亡の時に日本国民であつたときは、法務大臣に届け出ることによつて、日本の国籍を取得することができる。
2 前項の規定による届出をした者は、その届出の時に日本の国籍を取得する。

この条文を読むとわかるとおり、日本国民である父もしくは母の間に生まれた子どもは、日本国籍を持つ「日本国民」とみなされる。さらに国籍法では、日本国民でない者が「帰化」によって日本の国籍を取得することができるとしており、その際の条件についても指定をしている。詳しく知りたい人は、ぜひ一度「国籍法」を読んでみてほしい。

日本人であることの要件が見えてきたところで、今度は「外国人」の要件についてみていこう。

国の要件を基にすれば、日本国籍を持たない人はすべて「外国人」となる。
この「外国人」が日本に滞在する場合、必ず在留資格を取得しなければならない。つまり、法律上は日本に滞在している人はすべて「日本国籍取得者」か「在留資格取得者」のどちらかになり、さらに何らかの事情で在留資格がなくなった「非正規滞在者(オーバーステイ)」も存在する。

「短期滞在」を除く在留資格は、「永住者」と「非永住者」の大きく2つに分けることができ、「永住者」は「一般永住者」と「特別永住者」の2つに、「非永住者」は来日目的などによって細かく分けられており、それぞれの資格に応じた在留資格が発行される。「永住許可を得た」ということは、永住が認められた在留資格を取得したということであって、「日本国籍を取得した」という意味ではないのである。

▼在留資格別外国人登録者数の割合

出典:2013年12月度調査総務省統計局

Topへ戻る

なぜ「外国にルーツを持つ子どもたち」と呼ぶのか

「日本人」や「外国人」の要件についての丁寧な説明が必要なのは、この要件が今回のテーマである「外国にルーツを持つ子どもたちが直面する就学問題」と深くかかわっているからだ。

今回フォーラムを行った「認定NPO法人多文化共生センター東京」では、センターに通う子どもたちを「外国にルーツを持つ子どもたち」と呼んでいる。「外国人」という言葉を使わない理由は、ここに来る子どもたちは様々なバックグラウンドを持っていて、「外国人」という言葉で一口にくくれないのだ。

海外生まれ・日本育ちの子もいれば、日本と海外を行ったり来たりしてきたという子もいる。日本語が堪能な外国籍の子もいれば、日本語が母語でない日本国籍の子もいる。共通するのは「外国にルーツがある」という点と、「就学や進学について困難な状況に陥っている」という点だ。

王さんが今でも大切に保管している新聞記事を見せてくれた。

1999年10月8日の朝日新聞夕刊一面に載った記事で、見出しには大きく「東京の赤ちゃん 国際化急ピッチ」と書かれている。厚生労働省が発表している「国際結婚」の件数を見ると、2001年までは全国の件数はほぼ右肩上がりで増えており、2006年には44,701組に達した。その後は減少しているものの2012年でも23,647組あり、約28組に1組が国際結婚をしている計算になる。

当時教職についていた王さんがこの記事を読んで、「これだけ国際結婚の数が増えれば、外国人の親をもつ子どもも増える。日本の教育の現状を考えると、それは大変なことだ」と強く感じたからだ。あれから15年が経とうとしている日本では、いまだに「外国にルーツを持つ子どもたち」をとりまく就学・進学の環境は整っていない。

次に、彼らの状況をさらに詳しく見ていこう。

実態のわからない「外国にルーツを持つ子ども」の進学

日本人中学生の高校進学率は全日制で94.1%、定時制・通信制(本科)等への進学者を含めると98.1%に達しており、日本ではほとんどの子が高校へ進学をしている。

では外国ルーツの子どもたちの高校進学率は、どのくらいなのだろう。残念ながら、それを示す統計データそのものがないので、実態を把握することすら難しいのが現状だ。

多文化共生センター東京では現状把握のために様々な統計データを集め報告書にまとめているが、王さんは「役所には担当部署がなく、そのため公式なデータがありません。報告書のデータですら、実態を正確に反映しているとはいえません。むしろこの報告書で、データがいかにとれていないかということを知ってほしい」と語る。

不十分なデータをもとにしているという前提で参考となりそうなデータを見ていくと、東京都の公立中学校外国人児童生徒在籍率(※1)が44.7%なのに対し、公立高等学校外国人児童生徒在籍率はわずかに19.0%しかいない。義務教育である中学校の就学率も決して高くないが、高校の進学率はさらに低そうだということがわかる。

この数字に私立高校やインターナショナルスクール進学者が含まれていないことを考慮しても、かなり低い数字だといえるのではないだろうか。

※1 外国人在籍者数(学校に在籍している外国人数)/在留外国人数(12歳~14歳の特別永住者数+中長期在留者数) ×100

Topへ戻る

高い受験のハードル

なぜ外国ルーツの子どもたちの高校進学率は低いのだろう。

原因のひとつには、受験の困難さがある。特に中学生の時に来日した外国ルーツの子どもたちが高校進学を希望した場合、子どもによっては外国人選抜や在京外国人枠のような形で受験をすることも可能だが、特別枠の受験資格はほとんどが「来日3年以内」となっており、条件を満たさない子も少なくない。

▼参考:東京都立高等学校の在京外国人枠と合格状況

導入高校数 定員(全体) 受験者数 合格者数 合格倍率
3校/188校中 55名 151名 57名 2.6倍

特別枠以外での受験をしなければならない外国ルーツの子どもたちは、日本の学生たちと同じ基準で高校受験をしなければならない。自分が今まで習ったことのない言葉で、現地の子どもと同じ試験を受けなければならない…と想像すれば、これがどんなに大変なことか容易に想像がつくだろう。

中でも来日した子どもたちを悩ませるのが「漢字」だ。読み方や意味を複数持つ漢字を覚え、漢字で書かれた入試問題を読み解くのは、日本語学習者にとって相当ハードルの高いことだ。けれど受験では、問題を読みこなしたうえで「解答」もしなければならない。

専門性の高い理科や社会の勉強まで手が回らないため、ほとんどの子どもたちが3教科入試を選ぶが、3教科とて簡単ではない。次のデータを見れば、特に非漢字圏の子どもたちにとっては日本語での受験がどのくらい難しいことなのかが垣間見える。

▼平成24年度都立高校受験平均得点と多文化生得点の比較

出典:外国にルーツのある子どもたちの高校進学に関する実態調査報告書(2014年4月)/認定NPO法人多文化共生センター東京

データから明らかなのは、国語の得点の低さだ。

日本語が母国語でない子どもにとって、国語がいかに難しい教科なのかがわかる。問題文に多くの漢字が出てくる社会の難易度も高く、外国ルーツの子どものほとんどが3教科受験を希望するが、東京都内の公立高校で3教科受験を実施している高校はどんどん減っており、平成28年度にはすべての公立高校が5教科入試へ移行することが東京都教育委員会から発表されている。

受験勉強は大変だが、多文化共生センター東京が主催する「たぶんかフリースクール」のような場所で勉強をスタートできた外国ルーツの子どもたちは、まだ希望があるといえるのかもしれない。来日した子どもたちの中には、親も日本語がほとんどわからないためこのような支援機関があることすら知らず、受験の準備ラインにすら立てない子も少なくない。

18歳の高校受験 -「学齢超過」という問題―

さらに、外国ルーツの子どもたちが抱えがちな問題に「学齢超過」がある。

子どもの多くは親の都合に合わせて来日するため、一般的な日本の学生が高校を受験する14歳の時期に来日できるとは限らない。特に18歳を超えると事前に来日した親が家族として呼び寄せることが難しいため、出身国の中学校を卒業してから1~2年の間に呼び寄せられるケースも多いという。

例えば、16歳の子どもが日本で公立高校に進学したいと希望した場合、どのようなことが起こるのだろうか。まず、その子が出身国でどのような教育課程を修了したのかが問われる。出身国で9年間の教育課程を修了していた場合、つまり日本の中学校にあたる学校を卒業していた場合、受験資格を満たし受験に合格すれば日本の高校に進学できるが、受験の難しさは先に説明したとおりだ。

では、出身国で中学校を卒業していなかった場合はどうか。14歳以下であれば公立中学校に入学できるが、15歳以上だった場合、日本の教育現場では「15歳以上で来日した子ども、もしくは母国で中学校を卒業して来日した子ども」のほとんどは中学校へ受け入れてもらえない。

このため、出身国で中学校を卒業せずに15歳以上で来日した子どもが日本の高校に進学したければ、まずは夜間中学に通うしかないが、夜間中学の数は非常に限られている。

▼外国ルーツの子どもたちの進路イメージ

来日直後の生活は慌ただしく、学習環境が長期間失われてしまうことも多い。「来日したら、できるだけ早く勉強を再開する方がいいんです」と王さんは語る。

「みなさんだって、数学の公式や英単語は、やらなければ忘れてしまうでしょう?外国ルーツの子どもたちだって同じです。だからこそ、来日してからすぐに日本語の勉強を始めて、なるべく早く『教科』の勉強を再開できる環境を作ってあげることが大切なんです」という王さんの言葉には、確かにとうなずかざるを得ない。

しかし、外国ルーツの子どもたちが教科の勉強を再開するために踏まなければならないステップはいくつもある。その一方で、私たちにサポートできることもあることがわかってきた。


【訂正】
「日本で暮らす「外国人」って、誰のこと?」内の在留資格の説明に誤りがありました。下記の通り訂正します。

「この「外国人」が60日を超えて日本に滞在する場合、必ず「在留資格」を取得しなければならない。つまり、法律上は60日を超えて日本に滞在している人はすべて「日本国籍取得者」か「在留資格取得者」のどちらかになる。」
⇒「60日を超えて」の記述を削除

在留資格は、「永住者」と「非永住者」の大きく2つに分けることができ、~
⇒「短期滞在」を除く在留資格は、「永住者」と「非永住者」の大きく2つに分けることができ、~

以上

 後編に続く

» テーマのトップへ

» CO-BO って何?


【企画・取材協力、執筆】(株)エデュテイメントプラネット 山藤諭子、柳田善弘

【取材協力】認定NPO法人国際協力NGOセンター(JANIC)、認定NPO法人多文化共生センター東京

記事や調査結果の掲載・引用について
研究所について
  • 次世代育成研究室
  • 初等中等教育研究室
  • 高等教育研究室
  • アセスメント研究開発室
  • グローバル教育研究室
  • カリキュラム研究開発室
  • 情報企画室

ページのTOPに戻る