「貧困が引き起こす子どもの就学・進学問題」フォーラム
キッズドア編【前編】

日本の「子どもの6人に1人が貧困」という時代に

今年8月末、政府は「子供の貧困対策に関する大綱」を閣議決定しました。この大綱は昨年成立した「子どもの貧困対策の推進に関する法律」第8条に基づき、定められたものです。

世界トップクラスのGDP(国内総生産)を誇り、他の国々と比較しても平和で高い生活レベルや社会システムを持つといわれる日本。しかしこの日本において「子どもの貧困」が大きな社会問題となっています。今年7月、厚生労働省がまとめている国民生活基礎調査で明らかになった「約6人に1人が貧困」という現状に、憂慮を示す人は少なくありません。

多くの人が知らないうちに、急速な勢いで日本社会に広がっていた「子どもの貧困」。この社会問題の深刻さに気付き、解決のためのアクションを起こす人も出てきています。未来を担う子どもたちが貧困の連鎖にはまり抜け出せなくなる状況を打破するため、国も動き始めています。しかし、「子どもの貧困」は他の社会問題同様、短期間で解決できる問題ではないこともまた、わかり始めています。

CO-BOの第2クールでは、就学や進学といった場面においていわゆる貧困家庭の子どもたちが抱えがちな問題を取り上げながら、「子どもの貧困」が生まれる背景やその現状、現在とられている様々な支援策を紹介していきます。

第1回目フォーラムでは、「子どもの貧困」に学習支援という形でひとつの解決策を実行している特定非営利活動法人キッズドアの代表を務める渡辺由美子さんにお話を伺いました。

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「子どもの貧困」とは何なのか

今年7月、厚生労働省がまとめている国民生活基礎調査で「2012年度時点の子どもの貧困率は16.3%」という数字が明らかになり、多くの人に衝撃を与えた。16.3% とは、約6人に1人 の子どもが貧困という数字。日本国内で貧困に直面している子どもは決して少なくなく、貧困は遠い国々の問題ではないのだ。

▼貧困率の推移 (子どもの貧困率のみ値を表示)

貧困率の推移

出典)厚生労働省 国民生活基礎調査

日本の子どもが直面する貧困の状況を知るために、政府の公表している数字の変遷をたどってみよう。その前提として、日本では貧困の基準を「相対的貧困」という概念を用いて設定することを知っておきたい。これはその社会における最低限の生活レベルを規定し、それ以下の生活を「貧困」と定義づける概念で、OECD(経済協力開発機構)やEU(欧州連合)等でも採用されている。

先に登場した「子どもの貧困率16.3%」という数字。ここでの「子ども」は17歳以下の者をさすが、子どもたちの多くは自分で働いてお金を稼ぐことはできない。では、そうした子どもたちの貧困状況をどのように定義するのか。貧困率はその人の所得ではなくその人が属する世帯の所得をもとに計算するため、子どもの貧困率も、その子が属している世帯の等価可処分所得(※1)をもとに計算するという原則がある。この原則にならい、子どもの貧困率は「17歳以下の子ども全体に占める、等価可処分所得が貧困線に満たない子どもの割合」で算出することになっている。等価可処分所得とは、簡単にいえばその世帯での収入から税金や社会保険料を引いたもの。生活保護の保護費等の給付がある家庭では、それらも収入に含める。等価可処分所得が増えるほど、使えるお金は増えることになる。

貧困線とは等価可処分所得の中央値(※2)の半分の額。先の「16.3%」という数字が出た2012年の調査では貧困線が122万円 だったので、「子どもの貧困率16.3%」とは、等価可処分所得が122万円に満たない世帯で暮らす子どもの割合が16.3%だったことを意味する。

※1:等価可処分所得世帯の可処分所得はその世帯の世帯人員数に影響されるので、世帯人員数で調整する必要があります。最も簡単なのは「世帯の可処分所得÷世帯人員数」とすることですが、生活水準を考えた場合、世帯人員数が少ない方が生活コストは割高になることを考慮する必要があります。このため、世帯人員数の違いを調整するにあたって「世帯人員数の平方根」を用いています。
【例】年収800万円の4人世帯と、年収200万円の1人世帯では、どちらも1人当たりの年収は200万円となりますが、両者の生活水準が同じ程度とは言えません。光熱水費等の世帯人員共通の生活コストは、世帯人員数が多くなるにつれて割安になる傾向があるためです。(厚生労働省 国民生活基礎調査(貧困率) よくあるご質問より)

※2:データを順番に並べた全体の、中央にくる値。平均値とは異なる。

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悪化を続ける貧困率

キッズドア代表 渡辺由美子さん

キッズドア代表 渡辺由美子さん

同じような考え方で、相対性貧困とされる人たちの全人口における割合は「相対的貧困率」として算出される。渡辺さんは2012年度調査の結果をこう語る。

「2012年の数字は、前回の2009年度調査結果に比べてそこまで悪くなっていないだろうと関係者は予想していました。しかし、子どもの貧困率は過去最悪で16%を超えてしまった。さらに相対的貧困率が0.1ポイントの悪化にとどまったのに対し、子どもの貧困率は0.6ポイント悪化しています。国全体の貧困率よりも、子どもの貧困率の方が、急速に悪化をしているんです。」

渡辺さんは、こうも語った。「そもそも日本で『相対的貧困率』という数字が初めて公表されたのは2009年と、ごく最近です。それまで日本では『一億総中流』という考え方が根強く、貧困は他国の問題という意識が多くの人に根付いていました。しかし、リーマンショック後の2008年頃に健康保険に加入していない子どもたちに関する報道があり、世間を驚かせました。無保険の子どもたちの問題については厚生労働省が早急に対応をしましたが、この流れで子どもの貧困率を調査したところ、2007年時点の貧困率は14.2% と、約7人に1人が貧困だったんです。」厚生労働省が過去にさかのぼって調べた子どもの貧困率および相対的貧困率を見てみると、その数値はほぼ右肩上がりだった。「バブル景気」とも呼ばれて日本中が好景気に沸いた 1986年から1988年の間ですら、貧困率は上がっている。

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見えにくい貧困家庭の現実

日本には、貧困に直面している子どもたちが少なからずいる。これは各種調査からわかる事実だが、日本の子どもの貧困は見えづらいとも渡辺さんは話す。「最近は靴や洋服も安く買えるので、一見するとキレイな格好をしている。そんな子が、実は貧困に苦しんでいることがあるのです。」

2010年の国民生活基礎調査 によると、児童のいる世帯の所得の中央値は607万円。それに対して、母子世帯は229万円。貧困家庭にはひとり親家庭が多いのも大きな特徴で、ひとり親家庭の子どもの貧困率は50%を超えている。ひとり親家庭のうち母子世帯の平均年間収入は223万円、父子世帯は380万円(2011年度)であり、母子世帯の方が金銭的に苦労する傾向が強いことがわかる。30人学級で考えれば、学級内の子どものうち5人は他の子の3分の1弱の年収で暮らしていることになる 。

金銭的な生活の苦しさは、他の問題の誘因にもなる。昨今、子どもの虐待は深刻な社会問題となっているが、児童虐待のあった家庭のうち、「生活保護」「所得税非課税」等を受けている低所得世帯は約65%。少年院に新規収容される子どものうち、28.8% が貧困家庭の子どもというデータもある。お金がないことが原因で、貧困家庭は多様な問題を抱えてしまう傾向にある。

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日本は教育費における私費負担が重い

▼貧困の連鎖

貧困の連鎖

出典)キッズドア

日々のさまざまな支出は貧困家庭の親にとって悩みの種だが、特に教育費についての悩みは大きい。日本では小・中学校は義務教育。高校も2010年度から導入された「公立高等学校授業料無償制(※)」があり、公立高校へ進学すればお金はほとんどかからないのでは…と思われがちだが、実態は違う。

学校で使用する筆記用具、体操服、制服等は原則私費負担で、修学旅行費の積立もある。歩いて通えない学校であれば、交通費もかかる。部活に入れば、道具をそろえる費用や試合で遠征をしたりする際の交通費がかかる。

日本は家庭が「私費」で賄わなければならない部分が多い国なのだ。

「日本は教育費の公的支出が非常に低い国です。言い換えれば、教育に関する私費負担が非常に大きい国なのです。日本のような成熟社会では、一定の学歴がないと安定した生活のできる職に就くことが難しく、教育は非常に重要です。」という渡辺さんの言葉は、データによって裏付けられる。OECDが発表した対GDPにおける教育機関への公財政支出、つまり国や地方公共団体からの教育機関への支出 額割合は、2011年の数字で3.6%。OECD平均の5.4%の約7割であり、比較可能な加盟国の中で最下位の数字だ。教育機関への公財政支出において、日本は過去の調査でもOECD加盟国中常に最低グループに入る。

※2014年4月以降の入学者は新制度の「高等学校等就学支援金制度」の対象となります。

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教育と貧困連鎖の関係

学歴社会において教育費の私費負担が多いことは、貧困の連鎖を生む強力な要因となる。私費でまかなう教育支出のうち大きいのは、習い事や塾。東京都には「受験生チャレンジ支援貸付事業 」のように塾費用の支援制度があるが、すべての自治体に同様の制度があるわけではなく、「お金がなければ塾には行けない」のが一般的だ。その結果、塾に行っている子と塾に行けない子との間に学力の差がついてしまい、その差が進学や将来の就職にも影響を与える。

▼国公立7医学部合格出身校の変遷

国公立7医学部合格出身校の変遷

出典)中川さおり『誰が医者になるのか、医学部入試選抜システムと文化的再生産についての社会学的考察』

渡辺さんによると貧困が一因となって引き起こされる「教育格差」は確実に広がっているといい、こんな例を紹介してくれた。「ここに国公立大学7校の医学部に合格した学生の出身高校データ があります。1981年には、該当する医学部に合格した高校生は公立高校出身者が多かったんです。しかし2005年になると公立高校出身者は減り、私立高校出身者が大幅に伸びています。

この背景には一部のメディアが国公立大学への進学率で高校を評価するため、私立高校が国公立大学への進学に力を入れていることもあります。そして私立高校に通うにはお金がかかりますから、お金をかけて私立高校に通えない子はよっぽど勉強ができないと医者になれない、という状況です。お金をかけなくても頑張って国公立大学に受かればよい、とは言いにくい時代になってきているのです。」

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夢を叶えるためにまず教えること

多くの人が、お金が理由で欲しいものが買えない、手に入らないという経験をしたことはあるだろう。貧困とは、そのような経験が際限なく積み重なっていく状態だ。

渡辺さんはこんな話をしてくれた。「貧困家庭の場合、それが100円程度のお菓子であっても、子どもに買ってあげられないことが多いのです。スーパーに行くたびに、子どもは欲しいお菓子をねだる。けれども、親はお金がなくて買ってあげられない。こういう経験を積み重ねると、子どもはもう『買って』と言わなくなります。希望を口にしても叶えられない経験を積み重ねると、希望を持つことをやめてしまうのです。」

スーパーでお菓子を買ってもらえないこと自体は小さな出来事かもしれない。しかし貧困家庭の子どもたちは、このように小さな願いが叶えられない経験ばかりを延々と積み重ねていくことになる。そしてこの経験の積み重ねが、子どもたちから「夢を持つ」という行為を奪う。

さらに、貧困層の子は、働くことへの意欲も持ちづらいと渡辺さんは言う。「貧困家庭の親は長時間労働をしていることが少なくないですし、生活保護を受けていることもあります。そのため、子どもが目にするのは長時間のパート労働を終えて疲れ果てたお母さんの姿だったり、働きに出ないお父さんの姿だったりします。親のそうした姿を見て育つと、働く意欲が培われづらいのです。」

貧困家庭の子どもたちは、塾や習い事には行けない子が多い。家族で旅行に行く機会もほとんどない。毎日の生活が家と学校の往復で終わり、関わる大人は親と先生のみ、という子も少なくない。非常に限定された空間で、限られた大人たちだけに囲まれて育っているため、人との出会いや経験も不足しがちだ。キッズドアの学習支援ボランティアに参加して「大学生って、ほんとにいるんだ…!」というつぶやきを漏らす子もいるそうだが、この言葉は、これまでのその子の生活環境で「大学生」に接する機会が全くなかったということを意味している。

狭い世界で生きる彼らに、渡辺さんたちは活動の中で目標や夢を持つことの大切さを何度も説く。「私が関わった児童養護施設に入っていた高校生で、『外交官になる』という夢を持ち、努力した結果、国際基督教大学(ICU)に合格した子がいます。学校の先生も絶対に無理だと言った難関大学への進学を果たしたのです。夢を持った人みんなが夢を叶えられるわけではありませんが、そもそも夢を持たなければ絶対に叶わない、ということは子どもたちに伝えています」と渡辺さんは話してくれた。

 後編に続く

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【企画・取材協力、執筆】(株)エデュテイメントプラネット 山藤諭子、柳田善弘

【取材協力】特定非営利活動法人キッズドア

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