スマートフォンサイトを見る

激しい社会変化のなかで、子どもの生活や学びもどのように変化しているのか。
その変化を多面的、継続的に捉えるために、ベネッセ教育総合研究所と東京大学社会科学研究所は共同研究プロジェクトを立ち上げました。 そこで実施された調査の結果データを、いま多くの研究者たちが分析しています。本プロジェクトデータから得られた洞察と仮説をもとに、社会課題の解決の糸口を模索しています。
研究論文には書ききれなかった思いと展望を、研究者自身が伝えます。

親の子に対する関わり方が子どもの自尊心にどう関係するか

水野 君平

  •   水野 君平

    北海道教育大学旭川校 講師
    北海道大学大学院教育学院博士後期課程修了。博士(教育学)。公認心理師。旭川市スクールカウンセラー。北海道大学環境健康科学研究教育センター学術研究員、De Montfort University Academic Visitorを経て現職。主な論文にMizuno et al. (2022). Inter-peer group status and school bullying: the case of middle-school students in Japan. Adolescents, 2(2), 252-262.、「中学・高校教師になるための教育心理学 第4版」 (分担執筆、有斐閣、2020年)、「はじめての発達心理学―発達理解への第一歩」(第5章「対人関係の発達」、ナカニシヤ出版、2022年)など。


はじめに

 「自己に対する肯定的または否定的な態度」を指す概念である自尊心はうつ、自殺念慮などの問題行動や健康に関するアウトカムを複数、長期間予測するといわれています(e.g., Sowislo, & Orth, 2013)。生涯の中で自尊心の高低がどう変化するのかについて調べた研究からは児童期から思春期にかけて低下することも知られています(Robins et al.,2002;Ogihara, 2016)。加えて、国際比較調査からは日本人の自尊心は諸外国と比べて低いことが指摘されていたり(Schmitt & Allik, 2005)、日本の中でも過去と比べて現在の自尊心は低下していることも明らかとなっています(小塩他, 2014)。なお、ここで議論されている自尊心とは顕在的自尊心であり、顕在的自尊心の文化差にかかる議論や潜在的自尊心の文化差の議論については割愛します。話を戻すと、低い自尊心は自己肯定や自己受容の低さを示すだけでなく、それが不健康のリスクにもなることが示唆されていることや、日本は諸外国と比べて低い自尊心を示すという理由から、日本の思春期の子どもの自尊心を調べることの意義は大いにあると考えています。

 何が自尊心の低下に影響するかについては様々な研究がなされて要因が説明されてきていますが、その1つに保護者と子どもの関わり方(養育態度)が取り上げられています。例えば、子どもに厳しい一方で適度に自由を与え抑圧しない「権威ある養育」を受けている子どもほど自尊心が高く(Aunola et al.2000;Banstola et al. 2020;Moghaddam et al. 2017)、子どもに厳しくない一方で自由を与える「寛容な養育」や、子どもに厳しく抑圧的な「権威主義的な養育」な養育を受けている子どもほど自尊心が低いことが明らかにされています(Glozah 2014)。すなわち、保護者の「良い」養育によって子どもの自尊心が向上することが示されているということです。しかし、これらの研究結果は1 時点での自尊心の高低を扱っていて、自尊心の発達的変化にどう影響が及ぶのかまでは十分に明らかにされていませんでした。

親子パネル調査データを用いた縦断データ分析

 そこで、本稿が紹介する研究では思春期の子どもを対象にした縦断調査のデータから親の養育態度が子どもの自尊心の発達的変化にどのような影響をもたらすのかを明らかにすることを目的としました。

 本稿では「子どもの生活と学びに関する親子調査」の1時点目で小学6年生の 1,418 名とその保護者について、小学6年生時から中学3年生時までの 4 年間(1時点目から4時点目)を追跡したデータを分析対象としました。

 分析の前に、本稿における留意点を2つ挙げておきます。まず、自尊心の指標としては世界的に広く使われる尺度としてローゼンバーグの自尊心尺度(Rosenberg, 1965)が知られていますが、本稿ではパネル調査票に4時点間で継続して尋ねられていた「自分の良いところが何かを言うことができる」という質問への回答を自尊心の指標として用いています。次に、養育態度についても既存の尺度ではなく、子どもが小学校6年生時点で保護者に尋ねた9個の質問を組み合わせた指標を用いています。

思春期の自尊心の変化と養育態度の関係

 小学6年生から中学3年生にかけての自尊心得点の変化を示したのが次の図となります。図を見ると直線的ではありませんが、概ね低下傾向が見て取れます。実際、潜在成長曲線モデルという手法で分析した結果、変化量(傾き)には統計的に有意な低下が認められました。具体的には、平均して1年に0.03点低下するということがわかりました。加えて、小学6年生の自尊心得点(切片)や傾きにも統計的に有意な個人差が存在することも確認できました。すなわち、小学6年生から中学3年生にかけて緩やかに自尊心が低下し、その低下の程度には大きく低下する子どももいればそうでない子どもも存在するということが明らかとなったということです。

注)図は4時点にわたる自尊心の平均点の推移を示している。得点は1点から4点の範囲であり、得点が高いほど自尊心が高いことを意味する。

 次に9項目あった養育態度については因子分析という変数を縮約するための分析を用いて、2つの変数に纏まることが確認できました。1つは「いいことをしたときにほめる」や「悪いことをしたときにしかる」など子どもの自主性を尊重しつつ適度に統制を図るというような特徴で纏まりを見せたことから、先行研究に照らし合わせ「権威ある養育」因子と見なしました。そして、2つ目は「子どもに約束したことを守らない」や「子どもの気持ちがわからない」など子どもに対して関与もせず子の涵養を図らないような特徴で纏まりをみせたことから、「怠慢な養育」因子と見なしました。なお、「権威ある養育」と「怠慢な養育」の因子間相関は r = 0.45であり、中程度の正の相関を示していました。どちらか一方の養育態度が高ければもう一方の養育態度も高くなるということを意味します。

 最後に、これらの養育態度が子どもの自尊心の発達変化にどのような影響を与えるのかを次の図のように再び潜在成長曲線モデルによって分析しました。その結果、小学6年生の時点で保護者の「権威ある養育」が高かった子どもほど、その時の自尊心も0.02点高くなることがわかりました。そして、小学6年生の時点で保護者の「怠慢な養育」が高かった子どもほど、自尊心が1年ごとに0.05点低下することもわかりました(ただし有意傾向)。

注)***  p<.001 † p<.10 図は世帯収入を統制した結果を示しており、破線は有意ではないパスを示している。

 本稿の目的は保護者の養育態度が子どもの自尊心の発達的変化に与える影響を検討することでした。分析の結果、小学6年生から中学3年生における4根年間の自尊心の全体的な変化の傾向は低下傾向にありました。そして保護者の養育態度のうち、子どもの自主性を尊重しつつ適度に統制を図る養育を受けている子どもほど6年生時の自尊心が高く、子どもに対して関与もせず子の涵養を図らないような養育を受けている子どもほど自尊心低下が大きくなることが示されました。これらの結果は保護者の養育態度が子どもの1時点の自尊心に影響するだけでなく、自尊心の発達的変化自体にも影響を及ぼすということを示唆すると考えられます。ただし、自尊心の低下はかなり緩やかだったことと、養育態度からの影響も大きくはないことに注意が必要です。

 自尊心の発達的変化に対して「権威ある養育」は肯定的な影響を及ぼすことはありませんでしたが、そもそもの自尊心が高い傾向にあり、「怠慢な養育」は自尊心の発達的な低下を更に促進させる可能性が明らかとなりました。しかし、本研究で扱った「権威ある養育」と「怠慢な養育」の間には、どちらか一方の養育態度が高ければもう一方の養育態度も高くなるという相関関係があったことから、2つの養育態度は完全に切り離せず、計量的データからも子育ての難しさが示されたということでしょう。子育てを頑張りすぎるからこそ、疲れ過ぎてしまい、子どもとの関わりを避けてしまうなどが「子育てバーンアウト」の研究からも示されています(e.g., Furutani et al., 2020)。このことから、子どもの健康な発達を見守り、保護者が子どもの自主性を尊重しつつ適度に統制を図る養育を行えるような環境や支援が行き届くように、学校や地域からの広い視点で支援を行う必要性があると考えます。

参考文献

Aunola, K., Stattin, H., & Nurmi, J.-E. (2000). Parenting styles and adolescents' achievement strategies. Journal of Adolescence, 23(2), 205–222. https://doi.org/10.1006/jado.2000.0308
Banstola, R. S., Ogino, T., & Inoue, S. (2020). Impact of Parents' Knowledge about the Development of Self-Esteem in Adolescents and Their Parenting Practice on the Self-Esteem and Suicidal Behavior of Urban High School Students in Nepal. International Journal of Environmental Research and Public Health, 17(17), 6039. https://doi.org/10.3390/ijerph17176039
Furutani, K., Kawamoto, T., Alimardani, M., & Nakashima, K. (2020). Exhausted parents in Japan: Preliminary validation of the Japanese version of the Parental Burnout Assessment. New Directions for Child and Adolescent Development, 2020(174), 33–49. https://doi.org/10.1002/cad.20371
Glozah F. N. (2014). Exploring the Role of Self-Esteem and Parenting Patterns on Alcohol Use and Abuse Among Adolescents. Health Psychology Research, 2(3), 1898. https://doi.org/10.4081/hpr.2014.1898
Moghaddam, M. F., Validad, A., Rakhshani, T., & Assareh, M. (2017). Child self-esteem and different parenting styles of mothers: a cross-sectional study. Archives of Psychiatry and Psychotherapy, 19(1), 37-42. https://doi.org/10.12740/APP/68160
Ogihara, Y. (2016). Age differences in self-liking in Japan: the developmental trajectory of self-esteem from elementary school to old age. Letters on Evolutionary Behavioral Science, 7(1), 33-36. https://doi.org/10.5178/lebs.2016.48
小塩真司・岡田 涼・茂垣まどか・並川 努・脇田貴文 (2014). 自尊感情平均値に及ぼす年齢と調査年の影響—Rosenberg の自尊感情尺度日本語版のメタ分析— 教育心理学研究, 62(4), 273-282. https://doi.org/10.5926/jjep.62.273
Robins, R. W., Trzesniewski, K. H., Tracy, J. L., Gosling, S. D., & Potter, J. (2002). Global self-esteem across the life span. Psychology and Aging, 17, 423-434. https://doi.org/10.1037//0882-7974.17.3.423
Rosenberg, M. (1965). Society and the adolescent self-image. Princeton, NJ: Princeton University Press.
Schmitt, D. P., & Allik, J. (2005). Simultaneous administration of the Rosenberg Self-Esteem Scale in 53 nations: exploring the universal and culture-specific features of global self-esteem. Journal of Personality and Social Psychology, 89(4), 623–642. https://doi.org/10.1037/0022-3514.89.4.623
Sowislo, J. F., & Orth, U. (2013). Does low self-esteem predict depression and anxiety? A meta-analysis of longitudinal studies. Psychological Bulletin, 139(1), 213–240. https://doi.org/10.1037/a0028931

Topへ戻る

子どもの生活と学び研究】記事一覧

高校生の価値志向が性別専攻分離に与える影響に関する分析――職業志向・家族志向と性差に着目して――
増井 恵理子

大学進学希望形成時期と進路格差の形成メカニズム
山口 泰史

子どもの政治意識と授業における意見表明機会
太田 昌志

中学受験による進学が学業と学校生活に及ぼす影響 ─パネル調査データの分析から見えること─
森 いづみ

大規模パネル調査データの分析からみえてくる,親子のかかわりあい方「家族的背景と子どもの生活の関連 ──「お金」と「勉強」についての家庭内ルールに着目して」の成果より―
苫米地 なつ帆

子どもたちのデジタルメディア利用の実態と学業成績に及ぼす影響:小学生・中学生・高校生を対象とした3波パネル調査の分析
田島 祥

子どもの学業成績・子どもの進学期待・母親の進学期待の相互関係
鳶島 修治

小・中・高校生の学校外読書時間の全体像を描く――読書時間分布における「読む山」
猪原 敬介

育休世代のジレンマは「仕事と育児」から「仕事と教育」の両立問題にシフトしているか?~「両親の帰宅時間が子どもの成績や母親の両立葛藤に与える影響」
中野 円佳

ページのTOPに戻る