教育フォーカス

 

【特集18】変わる学校教育、その変化の潮流と課題を読み解く~
「第6回学習指導基本調査」より~

[第2回] アクティブ・ラーニングは高校の学び改革のチャンスだ
―探究学習・課題解決型学習の資産をどのように生かすか― [1/2]

樋田大二郎先生

樋田 大二郎 ● ひだ だいじろう

青山学院大学教育人間科学部・教育学科教授(学校教育学)
静岡県浜松市生まれ。東京大学教育学部卒業、東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。
近年の主な研究課題は、課題解決型学習、高校魅力化研究、教育調査等。 南山短期大学人間関係科助教授、聖心女子大学文学部教授を経て、現職。学校内外で行われる様々な学習の社会的背景と社会への影響に関心が高い。 社会における活動は、(一社)青少年問題研究会理事、(福)いのちの電話研修委員・評議員、神奈川県児童福祉審議会社会環境部会長、横浜市立横浜サイエンスフロンティア高等学校SGH運営指導委員等。
著書は、『現代高校生の学習と進路 高校の「常識」はどう変わってきたか?』(学事出版、編著)、『教育言説をどう読むか 続』(新曜社、編著)、『 高校生文化と進路形成の変容』(学事出版、共編著)等。

近年、広まった学習方法の1つがアクティブ・ラーニング(「主体的・対話的で深い学び」)だ。次期学習指導要領で強く推奨される学習方法である。学習指導要領が「何を学ぶか」に加えて、「どのように学ぶか」を論じることは意欲的で斬新である。アクティブ・ラーニングはここに来て表現が問われているようだが「主体的・対話的で深い学び」は導入の成果が見込めるのか。今は楽観視も悲観視も適切ではないように思う。

文部科学省がアクティブ・ラーニングの導入に至るまでには、いわゆるゆとり路線から始まる長い歴史がある。また、学校現場でもゆとり路線の頃からの長い実践の積み重ねがあり、高校段階では近年では探究学習や課題解決型学習という到達点に至っている。文部科学省の動向についての議論は別の機会に譲り、本稿は探究学習と課題解決型学習に焦点を当て、到達点を中心に、アクティブ・ラーニングの準備状況と今後の課題を検討する。

なお、本稿ではわかりやすさを優先して「アクティブ・ラーニング」の表記を用いる。

1.データで見るアクティブ・ラーニングの準備状況

第6回学習指導基本調査は、予想以上にアクティブ・ラーニング導入の土壌が育っていること、しかし一層の準備が求められることを示唆している。

文部科学省はアクティブ・ラーニングを主体的・対話的で深い学びであるとし、その要点を次のように説明する*1

  • ①学ぶことに興味や関心を持ち、自己のキャリア形成の方向性と関連付けながら、見通しを持って粘り強く取り組み、自己の学習活動を振り返って次につなげる「主体的な学び」が実現できているか。
  • ②子供同士の協働、教職員や地域の人との対話、先哲の考え方を手掛かりに考えること等を通じ、自己の考えを広げ深める「対話的な学び」が実現できているか。
  • ③各教科等で習得した概念や考え方を活用した「見方・考え方」を働かせ、問いを見いだして解決したり、自己の考えを形成し表したり、思いを基に構想、創造したりすることに向かう「深い学び」が実現できているか。

第6回調査は、直接アクティブ・ラーニング(AL)という言葉では尋ねていないが、「主体的・対話的で深い学び」という点でアクティブ・ラーニングに似ており、アクティブ・ラーニングへの経験の蓄積の場として重要な役割を果たす探究学習と課題解決型学習について質問している。

ここで、探究学習と課題解決型学習を簡単に紹介しておくと、探究学習では、主体的で深い学びが強調されることが多い。a.児童・生徒が自ら課題を設定する→b.探究の過程(①課題の設定、②情報の収集、③整理・分析、④まとめ・表現)を経由する→c.自らの考えや課題が新たに更新され、探究の過程が繰り返される(aとbの活動の発展)*2

課題解決型学習でも同じく、主体的で対話的な学びが強調されることが多いが、学習の課題が実際的(リアル)、実践的であることが多く、地元地域でこの学習を行う場合には、生徒は自分たちで地域にある問題を発見し協働して解決していく能力を身につけていく*3

2つの学習の共通点は系統学習や知識の詰め込みではないことであり、学習者の自発性や主体性を重視することである。この点でアクティブ・ラーニングの特徴と大いに重なる。なお筆者の経験では、2つの学習の違いは課題解決型学習のほうが実際の社会や生活の課題を解決することに焦点を当て、その際にアクティブ・ラーニングの第二の要点である協働や対話が重視される傾向がある。これに対して、探究学習はどちらかというと実際的であることにはこだわらずに、上述の「b.探究の過程」に焦点を当てるという点でアクティブ・ラーニングの第三の要点である「深い学び」が重視される傾向がある。


○アクティブ・ラーニングに類似した経験は積んでいる

これらの特徴を踏まえて、最初に表1を見ると、普通科高校のうち、全校で探究学習や課題解決型学習を実施している割合はおよそ4割の40.3%であった*4。 これに一部の生徒やコースを対象として実施している割合の20.6%を加えるとおよそ6割、60.9%の実施率であった。アクティブ・ラーニングに"似た経験率"は予想以上に高く、予想以上にアクティブ・ラーニングの土壌は育っていると見ることができるのではないか。

表1 探究学習・課題解決型学習実施率 <公立高校(普通科)、校長(775名)>

Q.貴校では、探究学習・課題解決型学習(主体的・協働的に課題の設定から
まとめ・表現や解決までを行う学習)を行っていますか。    

表1 探究学習・課題解決型学習実施率 <公立高校(普通科)、校長(775名)>


○これまでの経験の中でアクティブ・ラーニング導入の課題も見えてきている

しかし、表2で、探究学習や課題解決型学習の経験の中で見えてきた今後の課題として挙げられた上位5項目を見ると、教員の養成にかかわって「探究学習・課題解決型学習を指導できる教員の養成」が最も大きな値で60.6%であった。また、生徒の主体性や関心・態度にかかわっては、「生徒に主体的に学習テーマを設定させること」が53.8%、「生徒によって課題研究への関心やかかわり方の違いが大きいこと」が42.2%であった。また、評価に関連して、「学習活動の方法や成果を評価すること」が42.4%であった。アクティブ・ラーニングにおいても、教員の養成、生徒の主体性や関心・態度の育成、評価といった課題の克服が重要なポイントとなる。

なお、「探究学習・課題解決型学習を教科の学習に関連付けること」は41.5%であったが、このことは探究学習、課題解決型学習が「総合的な学習の時間」や「学校設定教科」で行われることが多い学習方法であるのに対して、アクティブ・ラーニングは教科の中にも導入される学習方法であるということを考えると重要な意味を持つ。アクティブ・ラーニングを特別の授業枠という範囲を超えて教科教育の中に取り入れることについては、今後克服すべき重要な課題となるかもしれない。

表2 探究学習・課題解決型学習の今後の課題として感じていること<公立高校(全学科)、
    校長(1,110名)>          

Q.貴校で探究学習・課題解決型学習を行うにあたって課題に感じていることは何ですか。

表2 探究学習・課題解決型学習の今後の課題として感じていること <公立高校(全学科)、校長(1,110名)>


○教師はアクティブ・ラーニングが育てるだろう学力を育てた経験が豊富ではない

続いて、図1は、探究型や課題解決型の授業に限定せずに、公立高校教員に対して生徒に具体的にどのような力が身についていると思うかたずねた結果である。

アクティブ・ラーニングの要点のうち、「対話的な学び」と関わりがある項目では、「人と協力しながら、ものごとを進める力」が58.9%、6割弱とやや高い値であったが、それ以外は4割を下回っていた。ようやく3割台であったのは、「深い学び」と関わる「文章や資料の情報を的確に読み取る力」が34.6%、「根拠にもとづいて判断する力」が31.0%であった。「新しい発想やアイデアを生み出す力」は20.0%ちょうどであった。

以上、これまでの授業の中では、教師はアクティブ・ラーニングが育てるだろう学力を育てた経験が豊富であるとは言い難いことを示している。

図1 生徒に身についていると思う力 <公立高校(全学科)、教員(6,436名)>

Q.あなたは、受け持ちの生徒に対して、次のような力がどれくらい身についていると思いますか。

図1 生徒に身についていると思う力<公立高校(全学科)、教員(6,436名)>


○教師の心がける授業に見るアクティブ・ラーニングの準備状況

学校現場では、長い間、アクティブ・ラーニングにつながる授業方法を心がけてきた。とりわけ、小学校でその傾向が強い。ここではいったん高校を離れて、傾向が明確でありかつ、我々の手元にデータがある(心がけている授業方法を98年調査から質問してきた)小学校のケースで検討しよう。

表3は小学校教員対象のアンケート結果をまとめたものである。この表で「主体的・対話的で深い学び」であることを"十分には意識していない"従来型の授業の代表例として「教師主導の講義形式の授業」に注目し、探究学習や課題解決型学習でよく見られる方法であり、アクティブ・ラーニングでも重要な授業方法になると考えられる「体験することを取り入れた授業」、「表現活動を取り入れた授業」、「グループ活動を取り入れた授業」の3項目に注目したい。

表3では、16年調査だけでなく、98年調査以降いずれの調査時点でも、アクティブ・ラーニングで重要となる授業のほうが従来型の授業よりも「特に心がけている」割合が高くなっている。
 「教師主導の講義形式の授業」は、98年が0.8%、02年が1.3%、07年が1.7%、10年が2.2%、16年が1.9%であり、10年の2.2%が最高でいずれの調査時点でも最下位に位置している。

これに対して、「体験することを取り入れた授業」は98年が1位63.1%、02年が1位64.6%、07年が1位51.9%、10年以降は新しく追加した項目に1位を譲っているが、10年が2位52.0%、16年が4位47.6%となっている。また、「表現活動を取り入れた授業」も98年が2位56.1%、02年が2位55.1%→07年が3位41.9%→10年が4位44.4%→16年が5位41.1%。そして、「グループ活動を取り入れた授業」も98年が4位43.5%→02年が5位46.4%→10年が5位41.5%、16年が3位49.9%とこれもつねにベスト5に入っている。学校現場では、2000年前後のゆとり批判以降も、ゆとり路線とその発展型の学力観の授業心がけられ育てられ、今次学習指導要領のアクティブ・ラーニングへと続いているのである。なお、後述するように、高校段階の10年と16年のデータを見ると、アクティブ・ラーニングで重要となる授業方法を心がける割合が高くなっている。


表3 授業で特に心がけていること <小学校、教員>

表3 授業で特に心がけていること <小学校、教員>

[注]

*1 中央教育審議会第106回初等中等教育分科会(2016年9月12日)配付資料「次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめ」45頁
 なお、文科省はこの後、「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について」(答申)(平成28年12月21日)で、アクティブ・ラーニングについて修正・補足しているが、本稿では、簡潔性を優先して「配付資料」を引用した。

*2 文部科学省, 2010, 『今、求められる力を高める総合的な学習の時間の展開(小学校編)』,17頁を一部修正)。

*3 樋田大二郎, 2016, 「地域課題解決型学習の意義と実際─島根県離島・中山間地域の事例をもとに新しい教育方法を考える」『青山学院大学 教職研究』第2号, 177-191頁.

*4 母数に理数科と外国語科を含めたが、総合学科と専門学科はカリキュラム構成上、探究学習と課題解決型学習の実施率が高いことが予め予想されるので除外した。

 

Topへ戻る

 【特集18】 一覧へ