近年、欧米諸国を中心に、子どもの成長を乳児期から数十年間にわたって追跡する長期的縦断研究が盛んに行われています。そうした調査の結果は、乳幼児期が、社会情動的スキルといった非認知的能力の発達に非常に密接な相関をもち、人生の基盤を形成する経験をもたらす時期であるということを明らかにしつつあります。
ただし、養育環境のあり方は、その社会・文化に固有の側面も多いため、日本の子育てを考えるためには、日本独自の縦断研究が必要になります。そこで、東京大学大学院教育学研究科附属発達保育実践政策学センター(以下、Cedep)とベネッセ教育総合研究所では、2017年、子どもの成長のプロセスを明らかにするための共同研究プロジェクトとして、0歳児からの縦断調査(追跡調査)「乳幼児の生活と育ちに関する調査」(以下、本調査)を始めました(図1)。
今回は、本調査の1回目の結果に基づき、母親・父親双方の視点から子育ての実態を明らかにするとともに、子育てを支える取り組みや社会のあり方を検討すべく、話題提供と指定討論を行います。
グローバル化の進展や科学技術の革新などを背景に、現在、社会は急激に変化しています。今後の予測が難しい時代に、子どもをどのように育てていくのかを考えるためには、個人の経験だけではなく、客観的なデータに基づくことが大切です。
また、ご存じのように、日本では少子化の進行が深刻化しています。例えば、2015年3月に閣議決定された「少子化社会対策大綱」は、子育て支援施策や男女の働き方改革などを重点課題として位置づけ、「結婚、妊娠、子供・子育てに温かい社会の実現に向けて、社会全体で行動を起こすべきである」と述べています。そうした中、子育ての当事者である母親・父親の声から、子育ての「今」を捉え、実効性のある具体的な取り組みを検討する必要性は、なおさら高まっていると考えています。
本調査では、日本全国から抽出した2016年度生まれの子どもをもつ家庭(調査モニター)を対象として、2017年から毎年1回、子どもの養育者へのアンケート調査を継続して行います。そうして、①乳幼児が育つプロセス、②乳幼児の発達と親の関わり、環境の因果、③乳幼児の親(家族)が育つプロセスと因果を明らかにし、よりよい子育てのあり方や家庭でのかかわり方について検討を深めたいと考えています(図2)。
調査モニターのお子様が小学校に入学するまでの乳幼児期はCedepとベネッセ教育総合研究所の共同研究、小学校に入学してからは東京大学社会科学研究所とベネッセ教育総合研究所の共同研究(「子どもの生活と学び」研究プロジェクト)に引き継ぎ、児童期以降につながる長期縦断調査とする予定です。
第1回調査は、質問項目を5つのカテゴリに分け(図3)、2017年9〜10月に行いました。回答者は、基本的に子どもの「主となる養育者」と「副となる養育者」の2人であり(*)、誰を主・副とするかを回答者に決めてもらいました。今回分析したのは、組み合わせとして最も多かった「主が母親、副が父親である」という家庭の回答です(図4)。 *主となる養育者のみの回答も含みます。
養育者と子どもの属性は、図5・図6にまとめていますが、話題提供とのかかわりが強いものを中心に、いくつか見ていきます。
まず、母親の平均年齢は32.7歳、第一子の母親に限定すると31.4歳です(図5)。厚生労働省の「平成28年人口動態統計月報年計(概数)の概況」によると、2016年に第一子を出生した母親の平均年齢は30.7歳であり、本調査の回答者とそれほど大きな差はありません。次に、母親の就労状況ですが、「無職(専業主婦など)」が最も多く、44.0%となっています(図6)。
最後に子どもの属性ですが、性別に偏りはなく、月齢も6か月〜1歳5か月までまんべんなく分布しています。出生順位としては、「第一子」が50.9%と最も多く、「第二子」が35.2%でした(図表略)。
【特集21】赤ちゃんの生活と育ちを追う〜乳幼児の生活と発達に関する縦断研究の挑戦〜
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