教育フォーカス

 

【特集20】教育ビッグデータで、変わる教育!! 
岐阜市とベネッセ教育総合研究所との共同研究「学習記録の可視化
による学習意欲・基礎学力の向上プロジェクト」の取り組みから

第2回:
学習記録を教師と生徒が共有して、生徒の自己肯定感を高める

北澤武先生

北澤 武 ● きたざわ たけし

(プロフィール)
東京学芸大学 教育学部 技術・情報科学講座 准教授
東京工業大学大学院社会理工学研究科博士後期課程修了。博士(工学)。専門は、教育工学、情報教育、学習科学、科学教育。首都大学東京大学教育センター准教授等を経て、現職。21世紀型スキルに着目したICT活用指導力向上プログラムの開発・評価等について研究している。共著に『心理教育の学生のための情報リテラシー&情報処理』(ムイスリ出版)など。

. 生徒の学習をよりよく支援するためには、どのような情報を教員にフィードバックするのが良いでしょうか。

A. 普段は気づきにくい、成績中位層の生徒の状況がわかるものが良いと思います。

教員は、日々生徒たちと接しながら、生徒の学習面や生活面などを理解しようとしています。普段からよくできる生徒や、いろいろなことを話してくれる生徒は、教員にとって理解しやすいです。しかし、成績中位層の生徒の学習状況や変化などには、なかなか気が付きにくいのが現実です。そもそも家庭学習をやっているのか、各教科の問題はどの程度解けているのかなどについては、日ごろのコミュニケーションの中だけでは、なかなかつかめません。
 例えば、学習記録を見てみると、頑張って多くの問題を解いているのに、正答率がほとんど変化しないことや、間違えた問題をそのままにしていて解き直しをしていないなど、「学習をしているのに伸びていない」といった状態が可視化され、気づかされることがあります。逆に、「最近は間違えた問題の解き直しを必ずするようになってきた」ことも可視化されます。そういった、学習についての変化やその兆しが可視化されることによって、教員は、生徒の学習状況に応じた支援がしやすくなります。

. 学習記録データから豊富な情報が取り出せますが、教員にはどのように情報をフィードバックするのがよいでしょうか。

A. シンプルで、課題を把握しやすいような見せ方になっていることが重要です。

私のように、データ分析の専門家からすれば、データは豊富な方が良く、いろいろな観点から分析し、その関係をひもときます。しかし、教員にデータを示す場合には、情報過多にならないようにすることが大切です。いきなり膨大なデータを見せられても、戸惑ってしまうかもしれません。必要なデータのみに絞り込んだり、見るべきポイントにマーキングしたりすることで、データを読み解く負荷を下げ、教員が生徒の課題を把握しやすいように工夫するとよいでしょう。
 具体的には、「学習量」「正答率」「解き直しの有無」などの実績を見ていくわけですが、学校全体・クラス全体といった集団全体のデータと個々の生徒のデータを比較してとらえられるようにしておくことが有効です。

図 週間学習記録表

図.担任向けフィードバックシート例

※画像をクリックすると拡大表示します。

. 教員と生徒が学習記録を共有するメリットと、見るべきポイントは何でしょうか。

A. 頑張っている事実に着目し、これを認めることで、生徒の自己肯定感が高まります。

多くの生徒は、「自分なりに頑張った」ことを

北澤武先生
認めてほしい、褒めてほしいと素直に思っています。

 「時間をかけて解説を読み、間違った問題は解き直しをして、頑張ってやったんだね」と、実際に教員から声掛けをしてもらえると、「自分のことをそこまで見てくれる」と、生徒の自己肯定感はいっそう向上します。学習記録データから、学習をしていないことも明らかになりますが、それを共有している教員が、できていないところばかり指摘すると、「先生に相談しよう」という気持ちにはなりにくいでしょう。教員は、生徒がどこを頑張ったのかを見つけて認める材料として使うことが大切です。

. 生徒が主体的な学びをできているかを測る指標は何かあるでしょうか。

A. 自分で目標を決めて、必要な学習を行っているかどうかが、重要なポイントになります。

北澤武先生

主体性の定義は様々ですが、「自分で課題を見極め、解決するという目標に向かって努力すること」という観点とここではとらえます。
 主体性について忘れてはならないのは、「他人と比べてできているかどうかは問題ではない」ということです。ほかの子よりも学習時間が少なかったとしても、自分が立てた目標に向かっていれば、主体性が発揮されているとみることができます。これまでまったく勉強をしなかった生徒が「毎日コツコツ頑張る」という目標を立て、宿題だけでも毎日取り組むようになるのも、主体性の表れとみてよいでしょう。逆に、力のある生徒が教員から与えられた課題だけをこなしている状態では、主体性が発揮されているとはみなせません。毎回、目標をクリアしている生徒であっても、その目標自体がいつも低い設定となってしまっては、主体性があるとはみなせないでしょう。いずれにせよ、教員が一律に課題の量を決め、それを超えているかどうかだけを尺度にしてしまうと、特に成績下位層の生徒の変化を見逃してしまうので注意が必要です。
 生徒の状況に依拠するので、毎日コツコツやることなのか、あるいは課題を100%やりぬくことなのかなど、学習の量や進め方、目標を生徒なりに自分で決めさせましょう。そして、目標に向けて学習ができているかどうかをワークシートなどで振り返らせ、この記述内容を授業時間内外の学習記録データとあわせて分析することで、主体性の表れも見ていくことができると思います。
 いずれにしても、学習記録は生徒の学びをよくするためにあるので、そのための活用の仕方を深めていきたいですね。

 

Topへ戻る


 【特集20】 一覧へ