教育フォーカス

 

【特集26】主体的な学びを引き出す問いづくり

主体的な学びを促す問いづくり①(高校国語編)

第1回は、高校・国語の『羅生門』を題材にして、各教科に閉じずに、教科を超えた問いづくりについて、12名の高校教員の参加者とともに議論した。

※本勉強会は、2019年度に実施した「主体的な学び研究会」での成果を土台にスタート。第1回は、オンラインで実施。「ICEモデル」のフレームを活用した問いづくりの模擬授業を、参加した先生方を生徒役として行い、その内容を基に議論していった。

>> 模擬授業に使用した資料の一括ダウンロードはこちら(PDF)

1.『羅生門』を題材に「葛藤」について考える

今回、模擬授業を担当したのは、元大阪府立枚方なぎさ高校の酒井将平先生だ。国語の『羅生門』を題材に取り上げ、生徒の主体的な学びを促す問いづくりを目標に掲げたオンライン模擬授業を行った。

まず酒井先生は、参加者に授業テーマを提示した。

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次に、『羅生門』の内容を参加者と共有するため、スライドにまとめたあらすじを読み上げた。

あらすじを読み終えると、酒井先生は、問①として、「あなたが最近、AかBか、決めかねていることは何ですか?」と参加者に問いかけ、30秒ほどで考えさせた。

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問①を考えた後、酒井先生は「小説には地の文と会話があります。地の文には、物語の『語り手』が語っている部分が含まれます」と話し、問②を参加者に伝えた。

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問②の回答として語り手への質問をチャット欄に書き込んでもらうと、それらの書き込みを共有する前に、物語に戻り、主人公の葛藤に関する2つの問い(問③、問④)を投げかけた。

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下人は「盗賊になるか」「飢え死にするか」という葛藤を抱えており、物語では「盗賊になる」と選択をしたことを参加者と確認。その後、酒井先生は問⑤を質問した。

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すると、参加者からは、「生きるためにしたことで、老婆も盗みをしていたので、自分もしていてもよいだろうと正当化すると思います」という発言があった。

それを受けて、酒井先生は「老婆の語りの中に『生きるために仕方がなくする』という部分があります。また、『髪を抜いた相手の女も悪さをしていた。自分が悪事を働いても許される』という部分があります。そうした老婆の語りを踏まえ、下人は葛藤しながらも1つの選択をしました。さて、ここで『羅生門』から少し離れて、最初の問①で挙げてもらったご自身の葛藤に戻りたいと思います」と話し、問⑥の問いかけをした。

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その際、酒井先生は、「チャット欄に書き込んだ自分の質問の1つ下に書き込まれた質問を読んで、その質問に対する答えを考えてください」と伝えた。その際、「『羅生門』の本文と結びつけて答えを考えてみてください」と強調した。

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酒井先生は数人の参加者を指名し、問⑦の答えを発表させた。

参加者「私は、A先生の『デパートに買い物に行きたいが、今の状況下で、自分の欲求を満たすために行動することは、悪かどうか?』という質問の答えを考えました。『生きるためには、自分の欲求を満たすことも大切であるし、デパートに行った人が全て新型コロナウイルスに感染するわけではないですよね』と答えたいと思いました」

参加者「私はC先生の『通勤コースAコースがよいかBコースがよいか』という質問を受け取りました。私が語り手だったとしたら『もしあなたが変化を求めるなら、偶発的なことが起きるようなコースの方がよいかもしれない』と答えると思います。主人公のように、変化を求めるなら、寄り道をたくさんできる方を通ったらどうかなと思いました」

酒井先生「下人が『羅生門』の中で、楼に上がることで価値観の変換が起きたように、寄り道をしたら価値観の変換を生み出されるのではないかということですね」

酒井先生は、次のように授業を締めくくった。

「皆さんも、小さい悩みから大きい悩みまで、様々な悩みを抱えていて、悩んでいる最中は、なかなか選択ができないと思います。ただ、先ほど『寄り道をすることで、新しい価値観の変換をすることができるのでは』といった意見が出たように、誰かに相談すると新しい発見があったり、外からの刺激を受けたりして、悩みに別の意義が生まれます。そうすると、葛藤を乗り越えて、新しい地平が開けるのではないでしょうか」


2.教材の導入で、教材と自身をつなげる問いを投げかける

模擬授業後には、元広島県立祇園北高校の 柞磨 昭孝 たるま あきのり 先生のファシリテーションで、酒井先生と参加者とのディスカッションが行われた。まず、酒井先生は、授業のねらいを次のように説明した。

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そのねらいの達成に向けて、「学びのICEモデル」のフレームワークを用いて授業をデザインしたと語った。

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「今回の授業では、図のようにIdeas(基本的な知識や技術)、Connections(知識や技術のつながり)、Extensions(体験や生活に結びつけた知の応用)、それぞれにおいての到達目標を決め、その目標に到達できるような問いを考えました。授業デザインの段階から課題に感じていたのは、Extensionsの到達目標です。どのように明確にしたらよいか悩みました」(酒井先生)

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酒井先生の説明を受けて、参加者から「『羅生門』の主人公と自分の葛藤をつなげて考える授業は、とてもよい手法だ」という意見が挙がった。具体的には、次の通りだ。

「主人公と自分の葛藤をつなげる問いが最初にあったので、すんなり授業に入り込めました」(参加者)

「高校時代に教材をどのように読むのかは学びましたが、教材と自分自身をつなぐアプローチは経験したことがなかったので、今回の模擬授業は新鮮でした」(参加者)

担当教科が国語科の参加者からは、「人が葛藤するのは、自分の中に論理があるからだと思います。今回の模擬授業で行った、本文の表現を用いて、質問の答えを考えさせる活動は、論理的思考力の育成に役立つと思いました」といった意見も挙がった。

ファシリテーターを務めた柞磨先生からは、「第1回の勉強会では、今回の授業のフレームを他教科で活用する方法を探ることがねらいです。他教科の先生はいかがでしょうか」と、問いかけがあった。すると、次のような発言が挙がった。

数学科担当教員「葛藤には、二面性がありましたが、1つの問題を別の方向から考えるという二面性は、数学にも当てはまると思いました」

倫理担当教員「倫理では、『相対主義』と『絶対主義』というものがあります。相対主義では他者が行っているならよいとする考えです。一方、絶対主義では、善悪は絶対的なものであり、たとえ他者が行っていたとしても悪であることは変わらないとする考えです。倫理の授業でも、葛藤について考えさせたいと思いました」


3.生徒が意思決定する場面を、授業の中で意識的につくる

参加者からは、「授業の最後に、教員が学習内容をまとめることも大切ですが、生徒が自分自身で葛藤を乗り越えていくためにも、『もやもや』を抱いたまま、授業を終わらせてもよいと思いました」といった意見も出た。

授業のまとめ方については、酒井先生自身も課題を感じていた。

「授業の最後に、生徒に問いを投げかけて終わりにしてよいか悩みました。今回の終わり方だと、自分があたかも葛藤の乗り越え方を持っているように、生徒は感じてしまうと思います」(酒井先生)

すると、参加者からも次のような声が挙がった。

「授業が予定調和になってもいけませんが、教員の意図も大事だと思います。特に、生徒にゴールを明確にするのは重要です」(参加者)

「酒井先生は、到達目標が不明瞭であることが課題だと言われていましたが、授業の目標を設定する際に、教員が生徒の力を認識できる形にすることが大切です。例えば、『I』の到達目標は『〜説明する』としているので、生徒の発言やノートから教員はそれを評価することができます。一方、『C』の目標は『検討する』、『E』の目標は『価値を生み出す』としていますが、教員が生徒の力を評価する方法が分からないため、到達目標が不明瞭になっているのではないでしょうか」(参加者)

柞磨先生も次のように、「E」(Extensions)の問いの大切さを指摘した。

「主体的な学びの観点から言うと、『E』では、学んだことを基にして、生徒が判断・意思決定することが重要です。それには、生徒が判断・意思決定する場面を、授業の中で意識的に設けることが大切です。今回の授業で言えば、生徒がAかBか葛藤して、答えを出す場面です。そうした明確な『論点』がない問いは、予定調和になりやすいでしょう。教員は、『E』をどのように機能させるかをよく検討することが重要です」

問いづくりの実践として、担当する国語の授業で生徒に問いを作らせているという参加者もいた。

「読解の授業では、生徒が問いを作る活動を行っています。感想や質問を付せんに書き、その中から授業で話し合いたいものを、生徒自身に選ばせています。教員が驚くような、予想以上の問いが挙げられることもあります。そうして、生徒同士で議論して設定させた方が、議論は活発になり、題材への理解も深まります」(参加者)

柞磨先生は、その意見を受けて、「生徒が深い学びへ到達するような問いは、他の先生も言われた通り、予定調和を崩すことで得られるのではないでしょうか。深い学びのための問いは、起承転結の『転』に相当する問いであり、それが、生徒の中から出てくることが、本当の学びだと思います」と述べた。


4.到達目標を明確にし、生徒がより主体的になる授業を目指す

酒井先生は、模擬授業を次のように振り返った。

「今回の勉強会での大きな学びは、論点の重要性を再確認できたことです。私が行った模擬授業では、論点をうまく設定できずにいました。その原因は、Extensionsの到達目標が抽象的であり、学びの方向性がぼんやりとしたものになっていたからだと、先生方との議論を通じて分かりました。論点を設定するためには、より具体的に到達目標を設定し、問いを検討する必要があると痛感しました。

議論では、数学にとっての『葛藤』とはどういったことか、倫理の学習内容との接点をどのように設定できるかなど、現代文と他教科との結びつきも知ることができました。さらに、先生方が実践している工夫や、問いを作る上でのポイントなど、主体的な学びの授業づくりに参考になる話を伺えました。生徒にとってよい問いを作ることも、論点を設定することも簡単ではありませんが、前向きに授業づくりに励んでいきたいと思います」

 

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