教育フォーカス

【特集5】幼児から高校生の学校外教育活動 なにを・いつ・どのくらい

第2回 : 母親の「習い事経験」は子どもの「活動選択」に影響するのか?
~スポーツ活動・芸術活動の世代間伝承に関する検討~ [1/4]

木村 治生

木村 治生

ベネッセ教育総合研究所 初等中等教育研究室 室長
きむら・はるお●ベネッセコーポレーション入社後、初等・中等教育領域を中心に子ども、保護者、教員を対象とした意識や実態の調査研究、学習のあり方についての研究、教育市場(産業)の調査などを担当。文部科学省や経済産業省、総務省から委託を受けた調査研究にも数多く携わる。専門は社会調査、教育社会学。

1.はじめに-保護者は自分の経験を伝えたいものなのか

冒頭から私事で恐縮だが、私は自分の子どもたちに小学校に入る前後から「そろばん」を習わせた。その一つの理由は、自分が子どものころに習い、計算するのに便利だと実感したからである。しかし、経験したすべての習い事を子どもたちに勧めているか、というとそうでもない。むしろ、自分が経験したことのない「武道」をやらせてみようと思って、体験入会をさせたりしたこともあった。自分がしたくてもできなかった「憧れ」を、子どもにやらせる保護者も多いと聞く。

本稿では、スポーツ活動と芸術活動について、母親から子どもへの世代間伝承を検討したい。このことは、保護者が獲得している文化資本(ブルデュー1990)が、いまの日本においてどのようなプロセスで伝わるのか、その一端を明らかにすることにつながる。保護者のスポーツや芸術に関する嗜好は、子どもに対する直接的な働きかけだけでなく、子どもの「習い事」を介して伝わっている可能性もある。果たして、保護者は自分の経験した習い事を子どもにやらせたいと考えるものなのか、それとも未知の経験を子どもにさせてみたいと思う傾向が強いのか。データを用いて検証していこう。

2.先行研究から-子どものスポーツ・芸術活動の規定要因

子どものスポーツ活動・芸術活動の規定要因に関する分析は、本研究の前回調査(2009年実施)のデータを用いて、すでに片岡(2010)、西島ほか(2013)が行っている。片岡は、「子どもの性別」「世帯年収」「父母学歴」「子どもへの進学期待」「親の文化的嗜好」のうち、どの要因が活動率に影響しているかを決定木分析により明らかにした。その知見を要約すると、次のようになる。

まず、スポーツ活動の活動率を規定する要因であるが、第一位は「子どもの性別」であった。子どもが男子であることが、もっとも強くスポーツ活動を強く規定している。続く第二位は、男子では「世帯年収」、女子では「母親のスポーツ嗜好」(身体を動かすことが「好き」かどうか)、第三位は、男子では「母親のスポーツ嗜好」、女子では「父母学歴」「世帯年収」という結果であった。子どもの性別によって順位の違いはあるものの、「世帯年収」といった経済的な要因とともに、「母親のスポーツ嗜好」といった保護者の意識も、活動の選択に影響を与えていることがわかる。

では、芸術活動はどうか。芸術活動の活動率を規定する要因も、第一位は「子どもの性別」である。端的に言うと、子どもが男子の場合はスポーツを、女子の場合は芸術を選ぶ傾向が強いということで、このことは、子どもの性による活動率の違いに表われている。これに続く第二位は、男子は「母親の文化的嗜好」(歌を歌ったり、楽器を演奏したりすることが「好き」かどうか)、女子は「父母学歴」である。また、第三位は、男子では「父母学歴」「世帯年収」が、女子では「母親の文化的嗜好」「子どもへの進学期待」が影響していた。ここでも、「母親の文化的嗜好」といった保護者の好みが、活動の選択を規定していることがわかる。

とはいえ、母親の嗜好といっても、その中身は多少あいまいである。そもそも、なぜその活動が好きなのか、という問題もある。そこで、本分析では、2013年調査で初めてたずねた「母親の習い事経験」の変数を用いて、母親自身の過去の体験がどれくらい子どもの活動の選択に影響を与えているのかを検討する。

3. 母親の習い事経験

最初に、母親の習い事経験の有無を確認しよう。調査では、「スポーツ系の習い事」「文化系の習い事*1」の経験について、「小学校入学前」「小学生の時」「中学生の時」「高校生の時」にしたことがあるかをたずねた(そのほか、学習塾や通信教育の経験もたずねたが、ここでは割愛)。その結果を示したのが、図1・2である。

*1:調査では「文化系」という言葉を用いているが、本稿では「芸術系」と同義の活動として扱った。

図1. 母親のスポーツ系習い事の経験率

母親のスポーツ系習い事の経験率

図1からは、母親のスポーツ系習い事の経験は「小学生の時」が約3割で多く、「小学校入学前」も1割程度いることがわかる。しかし、「中学生の時」や「高校生の時」に経験していた母親は、1割に満たない。中学生や高校生では、習い事としてではなく部活動でやるケースが多くなるためだろう。さらには、習い事ではなく、通塾を選択する割合が増えることも影響しているかもしれない。

図2. 母親の文化系習い事の経験率

母親の文化系習い事の経験率

図2は、母親の文化系習い事についてたずねた結果である。ここからは、スポーツ系習い事同様に、「小学生の時」>「小学校入学前」>「中学生の時」>「高校生の時」の順で多いことがわかる。しかし、経験率はスポーツ系習い事よりも高く、「小学生の時」に6割を超える母親が経験している。すでに今の母親世代は、習い事が当たり前の時代に育ったということがわかる。

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