教育フォーカス

 

【特集24】「デジタル・情報活用能力」をいかに育成するか

[第2回] 情報活用(デザイン)と情報モラル・セキュリティの育成

急速なテクノロジーの進化によって、社会に求められる力は大きく変わりつつある。中でも、情報活用能力は、学校教育でどこまで伸ばしていけばよいかが明確化しにくく、戸惑っている教員は少なくない。そこで、第2回は、カリキュラム・マネジメントの視点からどのように情報活用能力を育成するか、特に情報活用(デザイン)と情報モラル・セキュリティの教育について、東北学院大学の稲垣忠教授に話を聞いた。

稲垣 忠

稲垣 忠 ● いながき ただし

東北学院大学教授。関西大学大学院総合情報学研究科博士課程後期課程修了。東北学院大学教養学部講師、准教授を経て、現職。小学校、中学校、高校の学校現場にかかわりながら、情報教育、教育の情報化、学校間交流学習などを切り口に研究。主な編著に『教育の方法と技術 主体的・対話的で深い学びをつくるインストラクショナルデザイン』(北大路書房)など。

1.学習の基盤として位置づけられた情報活用能力

新学習指導要領の総則には、「学習の基盤となる資質・能力」として、「言語能力」「情報活用能力」「問題発見・解決能力」の3つが位置づけられました。それらの能力は、学校全体で教科を横断して育成することが重要とされています。

中でも、私が専門とする情報活用能力の重要性は、1980年代後半からずっと指摘されてきました。しかし、これまではパソコンが得意な教員が孤軍奮闘するだけで、多くの教員が当事者意識を持って取り組むまでには至っていませんでした。それが、新学習指導要領において、情報活用能力は学びの基盤として確実に身につける必要があるとされ、すべての教員にその取り組みが求められています。

ただ、情報活用能力の育成を教科等でどのように行うか、そのイメージは持ちにくいものです。そこで、文部科学省「情報教育推進校(IE-School、イースクール)」の指定校では、教育活動でどのように情報活用能力を育むか、具体的なカリキュラムデザインに取り組んでいます。

2.学校・自治体の実態に応じた情報活用能力の体系表をつくる

学校教育の中でどのように情報活用能力を育成していけばよいのか。その課題を解決するために、文部科学省から示されたのが「情報活用能力の体系表例」です。新学習指導要領で育成を目指す資質・能力の3つの柱として示された「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力等」「学びに向かう力、人間性等」の大分類の下に12の項目を設け、小学校の低・中・高学年、中学校、高校の5段階で到達度を示しています。

この体系表例は、IE-Schoolの成果を網羅しているため非常に細かいですが、あくまでも各自治体や各学校で独自の体系を作成するための例示です。これだけでは実践に移しにくく、体系表例を自治体・自校の実態にどう落とし込んでいくかが重要になります。

例えば、私もかかわった宮城県仙台市の事例を紹介します。仙台市では、情報活用能力を「活動スキル」「探究スキル」「プログラミング」「情報モラル」の4つのカテゴリーに分け、実践しやすいように「情報活用能力体系表(おすすめ単元表)」にまとめました。さらに、仙台市と宮城県教育委員会、そしてLINE株式会社と共同で、体系表に基づいて、ワークシートや指導例を盛り込んだ「みやぎ情報活用ノート」を作成しています。

このような取り組みは、大分県や神奈川県川崎市などでもスタートしています。茨城県つくば市などは21世紀型の学力を定義し、その中の1つに情報活用能力を位置づけ、育成プランを策定しています。

3.各学齢での発達段階に応じた評価規準

体系化は、情報活用能力を具体的にイメージできるだけでなく、小学校での学びが高校にどうつながっているのかなど、子どもの成長を見通すという点でも有効です。学校単位では、こうした体系表を参考に児童生徒の実態やICT環境に合ったカリキュラムを作成します。学年間、教科間で何をいつ、育成するのか。身につけた力はどこで発揮されるのかといった学びの地図をつくり、教員間で共有します。カリキュラム・マネジメントの3つの側面の1つ、教科横断的な視点で教育内容を組織的に配列します。

このような背景を踏まえて、今回、情報モラル・セキュリティと情報活用(デザイン)の評価規準についての評価規準を監修しました。今回作成した評価規準では、発達段階に応じた目標を設定しており、小学校から高校までの見通しを立てられることが特徴です。各学校が、情報活用能力の指導計画を立てる際に、系統立てて考えるために有効だと考えています。

情報活用(デザイン)の評価規準は、探究的な学びのプロセスと同様の観点で構成されており、各プロセスにおいて、具体的にどのような能力を身につけていく必要があるのかを考えるきっかけにもつながります。また、情報モラル・セキュリティの評価規準は、小学校の教科書には記載が少ない「セキュリティ」の観点も網羅していることが特徴の1つと言えるでしょう。

4.教科学習における情報活用能力の関連

情報活用能力の育成は、1人の教員だけが頑張ればよいのではなく、学校全体で取り組む必要があります。そのためには、カリキュラム・マネジメントの視点が不可欠です。特に、探究学習が重視されている昨今の学校教育では、情報活用(デザイン)が必要となります。

「情報教育」と言うと、「コンピュータは理系だから、算数や理科との親和性が高いのではないか」と思われやすいですが、そんなことはありません。情報活用能力に直接関係する教科・科目は、中学校は技術科、高校では情報科だけだと思われがちですが、国語科も深い関係があります。新学習指導要領では「情報と情報との関係」「情報の整理」など、情報の扱い方が取り上げられています。情報活用(デザイン)は、こうした情報の読み取り、整理、創造といったプロセスを駆動する力です。例えば、「委員会活動のリーフレットを作ろう」などの「書くこと」の領域や、インタビュー・プレゼンテーションなどの「話す・聞く」の学習は、情報活用(デザイン)力の育成に直結します。必要としている情報がどの書籍に載っているかを検索し、調べた情報をまとめていくという、これまでの図書館利用教育がベースとなっているからです。

他にも、社会科では、調べたことを地図やプレゼンテーションにまとめる単元、家庭科では、栄養バランスを考えた調理実習や、料理の献立を提案する単元も、情報活用(デザイン)の実践と言えます。1人1台の環境では目の前の端末ですぐに検索できるため、検索して最初に出てきた情報をコピー&ペーストするような活用になってしまいかねません。情報活用(デザイン)は、課題解決のために情報を見極める、複数の情報から意味のある成果をつくり出す上で重要です。

5.情報活用能力育成の観点から、指導内容を見直す

情報活用能力の育成は、現在の指導内容に新たに追加されるものではありません。既存の指導を捉え直し、改めてその育成を意識して授業やカリキュラムを見直してみましょう。学校全体で言えば情報活用能力体系表づくりから、教員一人ひとりで言えば情報活用(デザイン)の視点で単元を見直すことから、それぞれ進めることが情報活用能力の育成に取り組む第一歩になるでしょう。それらの活動を通じて、教員の中で「あの単元には、情報活用能力の育成が含まれていたのか」「この単元で身につけた力は、あの教科で使えそうだ」などの気づきが生まれるはずです。

情報活用能力の育成をどう教育活動に組み込んでいくかを話し合う際に役立つように開発したのが、「カリマネカード」です。このカードは、仙台市の体系表例をベースにしていますが、情報活用能力体系表を基に、年間計画にマッピングすることを通じて、どの教科や領域で情報活用能力を育成するか、学年ごとに体系立てて見通すことができます。

さらに、情報活用能力を育む活動を26種類設定し、「学習活動カード」に落とし込みました。単元のミッションと成果物を決め、1つの授業にどれくらい学習活動を行えるか、「単元デザインシート」に最大10枚のカードを配置していきます。

6.1人1台となるからこそ必須となる情報モラル・セキュリティ教育

2019年12月、文部科学省から発表された「GIGAスクール構想」では、「ネットワーク環境の整備」と「子どもへの1人1台端末の支給」が軸となります。現行の「教育のICT化に向けた環境整備5か年計画」では、「3クラスにつき1クラス分の端末配備」とされていて、活動の中で端末をいつ、どのように使うのかは、教員が管理せざるを得ませんでした。

その状況が、「1人1台」になると大きく変わります。基本的に、パソコンやタブレットは「子どもの学習の道具」となり、授業外も含めて活用することが可能になります。個別最適化のドリル学習や調べ学習、プレゼンテーションの課題作成など、あらゆる場面で端末が使われることとなるでしょう。

情報活用(デザイン)の実践と表裏の関係にあるのが、情報モラル・セキュリティの教育です。1人1台の端末の環境となった際には、これまで以上に自由に端末を活用できるため、児童生徒それぞれが最低限守ってほしいことを理解し、行動できるように指導をする必要があります。

パスワードの管理やウイルスについてなど、セキュリティの知識がなければ、1人の使用の誤りが学校全体のトラブルに発展しかねません。情報モラル・セキュリティの教育は、特に小学校では学習指導要領上の記載が明確でないため、教科に関連させるのが難しく、授業には位置づけにくいという声もあります。端末を配布する際に、情報モラル・セキュリティ教育を同時に行うなど、学校全体で運用ルールをつくるとよいでしょう。

7.「教科の評価」を第一としつつ、情報活用能力も評価を

情報活用能力を教科や学年を横断して体系的に育成していくには、評価の視点も必要です。指導と評価は一体化しているものですから、評価も各学校・各自治体で作成する情報活用能力体系表に基づいて行います。年に数回、チェックリストによる評価を実施して点検したり、特に情報活用能力が発揮される単元を選び、児童生徒の学習の様子や成果から、育成状況を把握したりするとよいでしょう。

授業ごとの評価を考えると、評価の軸は「教科の評価」と「情報活用能力の評価」の2つとなります。例えば、国語科でプレゼンテーションを行う単元では、教科の目標と情報活用能力の目標が一致します。そのような場合には、教科のねらいが達成していれば、情報活用能力も身についたと評価できると考えます。

一方、「教科の評価」と「情報活用能力の評価」が重ならない単元もあります。例えば、社会科で調べたことを発表する場面では、発表する中身が「教科の評価」として重要な軸となります。一方、スライドのデザインや発表する際のツールの活用、コミュニケーションといった部分が情報活用能力です。気になることはいろいろあったとしても、教科の学習が軸ですから、情報活用の面からは「受け手を意識して話ができているか」など、観点を絞って評価します。

成績評価としては、教科の達成度を評価するものですが、そこに到達するために必須となる情報活用能力についての指標を加味することで学習の質的な向上を見込めるのが、情報活用能力が「学習の基盤」である意味だと考えます。

私はこれまで、探究を中心に情報活用能力を育成する単元づくりの方法を提案してきました。今後は、カリキュラムづくりの方法に着目しながら、自治体や学校に向けて情報発信をしていきたいと考えています。私の提案だけでなく、様々な自治体の取り組み、実践例を参照しながら情報活用能力を育むカリキュラムと授業デザインが広がっていくことを期待しています。

 

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