教育フォーカス

【特集8】「一人一台環境における学びの自立を支援する学習モデルの検討」研究より

[第1回] 一人1台のタブレットを活用した家庭学習で、自ら学ぶ子どもを育てる  [1/5]

◎ はじめに

一人1台のタブレットを学習に活用する研究では、授業での使い方がテーマになることが多い。学校と家庭との学びの連続を見据え、東北学院大学教養学部の稲垣忠准教授は、現場の先生方やベネッセ教育総合研究所と、家庭での自主学習の支援について研究に取り組む。子どもが個々に行う自主学習を軸に、子ども同士をつないで「個に応じた学び」を支える指導のあり方を模索している。

聴き手:ベネッセ教育総合研究所グローバル教育研究室 主任研究員 住谷 徹

◎ タブレットを有効活用し、自立した学習者を育てる

稲垣先生は、「一人一台環境における学びの自立を支援する学習モデルの検討」をテーマに、ICTを活用した自主学習に関する研究計画を日本教育工学会(JSET)で発表されました。その目的や狙いを改めてお聞かせください。

稲垣:今、全国の学校で子どもたちがタブレットを持つ環境が整い始めています。通常、教育におけるタブレットの活用に関する議論は、授業でいかに用いるかが中心となっていますが、自分専用の端末でいつでもどこでも学習できるという学びの連続性を考えた場合、家庭学習でも活用しない手はありません。そこで、次の四つの狙いで研究を進めています。

一つめは、学校での学びと家庭学習を通して、自立した学習者を育てることです。自立した学習者とは、自分で課題や目標を見つけたり、解決法を試行錯誤したりするなど、自己の学びをコントロールできる人を指します。OECDにおける「キー・コンピテンシー」 や、ATC21S(*)が提唱する「21世紀型スキル」などにも表れているように、変化が激しい現代社会を生きていくには、自分で学ぶべきことを見つけ、自分の学びをコントロールできるようになることは不可欠です。学校教育においても、それは重要な目標の一つとされています。タブレットを活用した自主学習により、自立した学習者の育成を支えたいという思いがあります。

二つめは、子どもが日常生活の中で学びを発見し、それを学校の学習でも活用できるような「つなぎ」の役割をタブレットに担わせられないかという考えです。学校がない時代、子どもは生活の中の学びを通して大人になりました。学校教育が確立してからは、子どもが学校に通うことが当たり前になり、「学ぶこと」=「学校で教えられること」という図式ができました。しかし、学校以外の子ども同士の遊びや家庭でのお手伝いの中にも学びはありますし、テレビやインターネットなどの情報源が増えるにつれて、学校以外での学びの機会は広がっています。タブレットの活用により、そうした機会を生かして豊かな学びを実現できるのではと考えています。

*国際団体、Assessment and Teaching of 21st Century Skills のこと。

稲垣忠先生

稲垣 忠●いながき ただし

東北学院大学教養学部准教授。関西大大学院総合情報学研究科博士過程後期課程修了後、東北学院大教養学部講師、助教授を経て、現職。小学校、中学校、高校とさまざまな学校現場にかかわりながら、情報教育、教育の情報化、学校間交流学習などを切り口に研究を展開。主著に『授業設計マニュアル―教師のためのインストラクショナルデザイン』、『デジタル社会の学びのかたち(翻訳)』など。

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