教育フォーカス

【特集5】幼児から高校生の学校外教育活動 なにを・いつ・どのくらい

巻頭言 : 「学校外教育活動に関する調査」の意義と特徴

学校外教育活動

第2回 学校外教育活動に関する調査 2013

片岡 えみ

駒澤大学 文学部社会学科 教授
かたおか えみ ● 大阪大学大学院人間科学研究科 博士後期課程教育学専攻単位取得中途退学。博士(社会学)。専門は教育社会学、社会階層論、文化社会学。文化資本、教育達成と階層、「お受験」と階層閉鎖、親の教育戦略、文化消費の構造、信頼社会等について、理論的・実証的に研究している。主要業績として「教育達成過程における家族の教育戦略-文化資本効果と学校外教育投資効果のジェンダー差を中心に-」『教育学研究』(日本教育学会,2001年)。「格差社会と小・中学受験-受験を通じた社会的閉鎖、リスク回避、異質な他者への寛容性」『家族社会学研究』(日本家族社会学会,2009年)、『文化と権力 反射するブルデュー』(共著、宮島喬・石井洋二郎編,藤原書店,2003年)など。

1.調査の稀少性

2009年と2013年に実施された「お子様の日頃の活動や習い事に関するアンケート」調査は、母親の教育投資と子どもの教育文化活動、さらには母親の教育意識の実態を明らかにする全国調査である。過去に例をみないほど詳細で豊富な内容をもっており、貴重なデータを提供してくれる。具体的には、子どもの芸術文化活動やスポーツ活動、学習活動(教室学習と家庭学習)、自然体験や外遊び、宿題、テレビ時間などを含む日常的な活動に関するもので、学校の正規のカリキュラム以外の子どもの活動実態と、それらの活動をどのような団体がどれだけ担っているか等を調べている。これにより、子どもの学校外活動の家庭責任の度合いや、学校、地域の貢献の割合なども明らかになる。また教育費を詳細に知ることで、子育ての経済的負担、つまりは自己責任がどこまで広がっているかを明らかにしてくれる調査である。

2.学術的意義と政策的意義

以下では、この調査のもつ学術的意義と政策的意義について、まとめておこう。

2.1 学力の不平等から社会化の不平等へ:格差社会問題とのリンク

これまで子どもの格差問題は、主に親の経済力によって生じる学力格差に焦点があてられてきた。しかし子育ては学力や進学だけが重要なわけではない。いいかえれば教育投資は、学力や学習に関わるものばかりではない。

学業以外の文化的活動、スポーツ活動等が、人格の陶冶とうやや身体能力の形成、社会性の発達など、人間形成全般に大きな影響を及ぼしている。われわれは、子どもの成長発達(社会化)の過程に、どれだけの格差(不平等問題)があるのかについて、もっと関心をむけるべきなのである。

この問題は、学術的には、(1)子どもの家庭背景と経験する文化の不平等の問題、そして(2)親から子への文化の再生産の問題としても、位置づけることができる。さらに調査結果からは、子どもの活動に家庭背景(出身階層)のバイアスとジェンダー・バイアス、そして地域バイアスがあることも明らかにされている。

2.2 現代の「教育熱心な親」と教育投資家族の実態

本調査の分析から、現代の親たちの教育戦略の多様性を明らかにすることができよう。ペアレントクラシーといわれる教育熱心な親と、そうでない親で、教育意識の違いや教育投資の違いを明らかにできる。たとえば芸術文化投資型の母親もあれば、スポーツ重視型の母親、学力重視の教育投資をする母親もある。それらの多様性とその背景を明らかにすることで、格差社会における親たちの「子育て戦略」を知ることができる。

2.3 政策的意義

日本の子ども達が芸術・スポーツ活動の豊かな経験をもてるかどうかは、文教育政策だけでなく、文化政策として検討することで、文化政策を評価するうえで重要な指標となるはずである。

その理由は、2つある。第1に、多様な芸術文化経験、スポーツ経験は、子どもの発達にとって重要な要素である。第2に、日本の子どもが、豊かな芸術文化経験・スポーツ経験をもてるかどうかは、次世代の社会で、新たな文化的創造を生み出すことができるかどうかと関わる重要な問題である。将来の日本の在り方として、知識集約型産業あるいは文化産業、コンテンツ産業による経済発展を視野に入れるのであれば、子どもたちの文化的能力の養成は、社会の重要な課題となるはずである。地域文化の振興や文化振興策との関連においても、本調査データを検討することで明らかになる部分は大きい。

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