教育フォーカス

 

【特集18】変わる学校教育、その変化の潮流と課題を読み解く~
「第6回学習指導基本調査」より~

[第4回] 中学校教員の部活動指導の実態と意識から今後の部活動のあり方について考える [1/2]

西島央先生

西島 央 ● にしじま ひろし

首都大学東京 都市教養学部 准教授。
東京大学大学院教育学研究科 総合教育科学専攻 比較教育社会学コース 博士後期課程単位取得退学。専門は、教育社会学、音楽教育学、文化政策学。東京大学大学院教育学研究科 助手、助教を経て、現職。
編著書に『部活動-その現状とこれからのあり方-』(学事出版)、『戦時下の子ども・音楽・学校-国民学校の音楽教育-』(開成出版)など。

1.はじめに

部活動指導が中学校教員の多忙状況の要因の一つとして指摘され、社会問題化してもう1年半が経つ。この状況に対して文部科学省は、2016年6月に「学校現場における業務の適正化に向けて」という報告書を公表して、運動部活動について「休養日の設定」「複数顧問制の導入」「部活動指導員(仮称)の制度化」等の方策を示した。また2017年1月に「平成28年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査の結果の取扱い及び活用について」という通知を出して、運動部活動の適切な運営にあたり休養日を設定することを求めた。そして2017年4月には学校教育法施行規則が一部改正されて、部活動指導員の制度が定められた。現在は、スポーツ庁による調査や各地自治体によるモデル事業等が行われているところだ。

これらの取り組みは、中学校教員が課外活動指導にあてている時間が参加国平均の週2.1時間に対して日本は7.7時間であることを示したOECDの「国際教員指導環境調査(TALIS)」の調査結果や、教員の部活動指導や生徒の部活動への参加の選択制を求めるなど、部活動の問題点をSNSで発信する「部活問題対策プロジェクト」の問題提起などを受けているかもしれない。しかし、指摘された問題への対症療法的な対策にとどまっていて、部活動をめぐる学校現場の多様な実情が十分反映されていないように感じる。

それに対して、第6回学習指導基本調査では、全国各地の中学校教員に対して、部活動の顧問担当状況、部活動指導のあり方に対する考え方、部活動指導員の任用に対する賛否、部活動指導を含めてさまざまな業務で困っていることなどを尋ねている。また、部活動のあり方が社会問題化してきた時期に行った調査でありながら、学習指導を主眼にしているため、部活動指導に関してさまざまな関わり方や考え方をしている教員の全体像を捉えられている。本稿では、この特徴を生かして、取り組もうとしている方策をよりよいかたちで運用していくための課題を検討するべく、中学校教員の部活動指導の実態とそのあり方に対する意識を探っていくことにしたい。

2.部活動の顧問担当状況

部活動指導の実態を確認していこう。どのくらいの中学校教員が部活動の顧問を担当しているのだろうか。

 図1のように、「主顧問・副顧問(両方)」=4.0%、「主顧問」=55.8%、「副顧問」=35.8%、「顧問担当なし」=2.5%で、合わせて95.6%の教員が顧問を担当している(61歳以上を除いた割合。以下同様)。学校現場では既に複数顧問制がある程度普及していて、こんなにも高い割合で顧問を担当しているのだろう。2017年4月に公表された「教員勤務実態調査」では、部活動の顧問を担当している中学校教員は84.4%だったが、それには管理職や養護教諭等も含まれているから、一般の教諭はやはりほとんどが顧問を担当していると思われる。

図1 部活動顧問担当状況(中学校教員)

図1 部活動顧問担当状況(中学校教員)

図2から性別・年齢別にみてみよう。女性教員で主顧問を担当しているのは全体では41.8%だが、年齢別にみると、「26~30才」は58.8%に上る一方で、40代以上は30%台にとどまる。そのかわり、副顧問の割合が「26~30才」の36.8%から「51才~60才」の60.3%まで増えている。

男性教員で主顧問を担当しているのは全体では66.0%と女性教員の1.5倍いる。年齢別にみると、「26~30才」と「31才~40才」はどちらも77%にも上っており、「51才~60才」だけが半数を切っている。副顧問の割合は、「25才以下」から「41才~50才」まで20%台前後で推移し、「51才~60才」になって42.6%に増える。


図2 「主顧問」「副顧問」担当の割合〔性別・年齢別〕(中学校教員)

図2 「主顧問」「副顧問」担当の割合〔性別・年齢別〕(中学校教員)

注)「主顧問・副顧問」「主顧問」「副顧問」「顧問担当なし」のうち「主顧問」「副顧問」の割合のみ示している(「無回答・不明」を除外した割合)。

性別・年齢別で異なる理由は、第一に、女性教員が結婚・出産を経て家事・育児に男性教員よりも時間を割くようになること、第二に、年齢とともに他の校務分掌で責任の重い役職に就き、その職務に時間を割くようになることが考えられる。

それに加えて、設置されている部活動の種類のアンバランスの問題がある。筆者が2015年度に鹿児島県の中学校12校の生徒約2000人を対象に実施した部活動に関する調査では、運動部が合計102部、文化部が合計26部あり、男子生徒の95.9%、女子生徒の68.5%が運動部に所属していた。運動部に偏った設置状況と部員数が顧問を担当する教員にも影響して、おそらく男性教員は運動部の主顧問を、女性教員は数少ない文化部の主顧問か運動部の副顧問を担当することが比較的多くなり、性別の違いが生じていると考えられる。

3.部活動指導による勤務の多忙状況

部活動の顧問を担当することで本来職務を超えてどのくらい忙しくなっているのだろうか。主顧問や副顧問を担当している教員の、授業がある平均的な一日の退勤時刻と、土曜日と日曜日の出勤状況をみてみよう。その際、ケース数が92と少ないが、比較の参考として顧問を担当していない教員についても示すことにする。

退勤時刻の平均を算出したところ、主顧問=20時05分、副顧問=19時43分、顧問担当なし=18時43分だった。主顧問は顧問担当なしより1時間20分、副顧問でも1時間ほど退勤時刻が遅くなっている。主顧問や副顧問の教員が部活動指導のために退勤時刻が遅くなっているようすがうかがえる。

「土曜日または日曜日にほとんど毎週」出勤している割合を図3からみてみよう。この出勤には学校行事も含んでいるから、顧問担当なしの31.5%は学校行事等の校務や教材研究・授業準備のためと想定される。それに対して顧問を担当している教員は、主顧問=87.9%、副顧問=63.1%と、土日にほとんど出勤している割合がかなり高くなっている。とくに主顧問を担当している教員は、学校行事等の本来職務での出勤も含めて、大半がほとんどの土日に出勤している状態だ。


図3 土曜日または日曜日に「ほとんど毎週」出勤している割合〔顧問担当状況別〕(中学校教員)

図3 土曜日または日曜日に「ほとんど毎週」出勤している割合

注)「主顧問・副顧問」は省略。「無答・不明」を除外した割合。

主顧問・副顧問の退勤時刻と土日の出勤の実態を合わせて考えると、部活動指導の負担の分散という本来の複数顧問制の趣旨とはずれて、主顧問も副顧問もなるべく平等に負担しようとして、全体としてはかえって教員の負担を増加させてしまっているのではないだろうか。

4.部活動指導とその他の業務の負担感

以上のように部活動指導に関わっている教員たちは、部活動指導にどのくらい負担を感じているのだろうか。またそれは他の業務と比べて大きいのだろうか、小さいのだろうか。 仕事の量や時間等に関する悩みをどのくらい感じているかをみてみよう。

図4のように、「部活動の指導が負担」に、31.4%が「とてもそう思う」、32.4%が「まあそう思う」と回答しており、3分の2の教員が部活動指導に負担感をもっている。
 「とてもそう思う」+「まあそう思う」の合計でみると、「教材準備の時間が十分に取れない」と80%以上が悩んでいて、大半の教員が学習指導に十分な時間を充てられない多忙状況にあることがわかる。ただ、その要因としては、「校務分掌の仕事が負担である」に59.4 %が、「作成しなければいけない事務書類が多い」に76.2%が負担感をもっているなど、教員は部活動指導だけを多忙状況の要因と捉えているわけではないようだ。
 つまり、いまは部活動指導のあり方が社会問題化しているので、その負担にばかり目が向きがちだが、教員たちは業務全般にわたって多忙状況にあり、負担を感じているのだ。


図4 職務の負担感〔仕事の量や時間の悩み〕(中学校教員)

図4 職務の負担感〔仕事の量や時間の悩み〕(中学校教員)

※上記画像をクリックすると拡大します。

業務全般をていねいに調査したのが、2014年に文科省が行った「教職員の業務実態調査」だ。この調査では、小中学校の教職員を対象に、「生徒の指導に関する業務」と「学校の運営に関する業務」の合計71項目について、従事状況と負担感などを尋ねている。図5に部活動指導に関わる「部活動の活動計画の作成」「部活動の技術的な指導、各種大会への引率等」「関係機関への申請・登録、大会申し込み」という三つの業務を中心に中学校教諭の調査結果を抜粋した。


図5 中学校教諭の学校現場における業務の従事率と負担感率(中学校教員)

図5 中学校教諭の学校現場における業務の従事率と負担感率(中学校教員)

※上記画像をクリックすると拡大します。

一般に「部活動指導」というと「部活動の技術的な指導、各種大会への引率等」がイメージされよう。その従事率は91.3%で、2節の結果とほぼ同じだ。負担感率は48.5%で、本調査より約15ポイント低い。部活動関係の他の二つの業務と合わせてみると、生徒に関わる「活動計画の作成」の負担感率は従事率の半分ほどだが、「申請・登録、申し込み」については負担感率がやや高い。

その他の業務はどうだろうか。「生徒の問題行動への対応」は従事率が93.3%で負担感率は55.3%である。「学校行事の事前準備、当日の運営、後片付け」は従事率が92.7%で負担感率は31.9%である。どちらも部活動指導と同じくらい従事しているが、生徒指導の負担感率はやや高く、学校行事の負担感率はやや低い。「月末の統計処理や教育委員会への報告文書の作成」は56.6%の従事率に対して負担感率は57.3%と、書類作成に携わっている教員がみんな負担感をもっている勘定だ。全71項目でみると、「関係機関への申請・登録、大会申し込み」の負担感率(50.7%)より負担感率の高い項目は21項目あり、「部活動の活動計画の作成」の負担感(39.0%)より負担感率の低い項目は26項目あった。

もちろん、各業務に従事する時間が違うので一概に比較できるものではないが、二つの調査結果からみえてきたのは、部活動指導の負担感は、教員の業務全体でみれば平均的なものだということではないだろうか。にもかかわらず、部活動指導のあり方が教員の多忙状況の要因の一つとしてこれだけ社会問題化したのは、教育課程外にありながら教育課程との関連づけを留意することが求められている制度的な位置づけの曖昧さによると考えられる。


 

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