教育フォーカス

【特集22】新しい時代の"チーム育児"を考える〜乳幼児の生活と発達に関する縦断研究より〜

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    夫婦の協働と子どもの発達 /大久保圭介

大久保圭介●おおくぼ・けいすけ

東京大学大学院教育学研究科博士課程在学中。日本学術振興会特別研究員。修士(教育学)。専門は教育心理学・発達心理学。アタッチメント理論の視座から、親子関係や夫婦関係などの二者関係におけるケアギビングの機能と発達について研究している。2018年より「乳幼児の生活と育ち」研究プロジェクトに参加。

夫婦関係の良好さと子どものアタッチメントとの関連は?

大久保圭介

私は、子育てにおける最小チームである夫婦の関係が子どもの発達に及ぼす影響について考察します。

夫婦間における仲の良し悪しは、子どもの認知的・非認知的スキルの発達と密接な関連があることが、従来の研究で指摘されてきました。本調査では、子どもの発達に関する複数の項目を設定していますが、今回はその中から、子どもが主要な保護者との間に築く情緒的なつながりである「アタッチメント」の安定性を取り上げます。アタッチメントはもともと、子どもが恐怖におののいたり苦しみにさいなまれたりしたときに、そのネガティブな感情をしずめるために、自分を保護してくれる人(多くの場合は母親)にくっつく行動のことを指します。そして、保護者との関係の中で思った通りになぐさめてもらう経験を蓄積することで、「自分は助けてもらえる存在なんだ」「お母さんって自分をちゃんと助けてくれる人なんだ」という、いわば対人関係の基盤となる信頼感が形成されます。乳幼児期にそうした信頼感を持てることは、その後の幅広い対人関係のとりむすびや学習に向かう姿勢の土台となります。そうした意味でも、保護者との間に安定したアタッチメント関係が形成されていることは極めて重要なことだと言えます。

夫婦関係と子どものアタッチメントの安定性には、何らかの関連があると考えられており、私たちは「配偶者との関係が良い夫婦は、子どものシグナルを敏感に察知するなど、ポジティブな養育行動をとりやすくなる結果、子どものアタッチメントが安定するのではないか」という仮説を立てていました。

実際、夫婦関係についての調査項目を分析したところ、母親において、①妊娠期における夫婦の関係性、②現在の夫婦関係の良さの2つにおいて、ポジティブな養育行動との関連が統計的に認められました(図4)。具体的には、「赤ちゃんをどう育てるか」「出産後の家事・子育ての分担」などについて、妊娠期に配偶者と話し合っていたという夫婦や、「幸せな結婚生活を送っている」「配偶者といると本当に愛していると実感する」という夫婦では、母親・父親ともに、子どもへのポジティブな養育行動を多くとる傾向がありました。そして、母親によるポジティブな養育行動と子どものアタッチメントの安定性には、高い関連性があることも示されました。

夫婦関係に対する母親の満足度が父親のポジティブな養育行動につながっているという、クロス効果があることもわかりました(図5)。すなわち、母親が夫婦関係をどう捉えているかは、夫婦両方の養育行動に影響することになります。


図4 クリックで拡大します

図5 クリックで拡大します


母親が「夫婦関係が良い」と感じるポイントとは?

では、母親が夫婦関係の良さを感じる要因は何でしょうか。本調査の分析結果からは、①妊娠期の支え、②妊娠期の話し合い、③子育ての分担、④子育てへの信頼の4つが、母親が自分の夫婦関係の良し悪しを判断する際の鍵になっていることがわかりました(図6)。


図6 クリックで拡大します

①妊娠期の支え、②妊娠期の話し合いは、子どもが1~2歳児期でのよい夫婦関係に影響しています。つまり、出産後の夫婦関係には、妊娠期における配偶者への支援や、配偶者とのコミュニケーションが密接にかかわっているということです。また、③子育ての分担、④子育てへの信頼、に見られるように、やはり物理的な分担量も含めて、子育てで頼りになると母親に思ってもらえるような関わりをすることで、母親の負担感が減り、夫婦関係の満足度も高くなると考えられます。

よりよい夫婦関係をもたらすには、子育てを分担して行うことも重要です。しかし、それだけで決まるわけではなく、夫婦による「チーム育児」を充実させるための準備は、子どもが生まれる前から始めることが大切だと言えるのではないでしょうか。

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