教育フォーカス

 

【特集25】主体的な学びの実現
~「主体的な学び研究会」2019年度活動報告書 ~

エピソード 研究会メンバーのICEとの出会い
大阪府立枚方なぎさ高等学校 酒井 将平

1.「教え込み(教授主体)から、主体的な学び(探究主体)に学びを変える」必要性が高まったと感じる、ご自身の経験。

教師が授業の中で提示した価値に対して、生徒が積極的な態度を示すか、消極的な態度を示すかのどちらかであれば楽しいのですが、現実は必ずしもそうではありません。吟味することなく受け入れたり、無関心であったりする生徒、いわば客体的な生徒も多くいるように感じています。こういう状況の教室には、授業をしていてどこか息苦しさを感じます。おそらく、生徒も同じではないでしょうか。

原因としては、私自身の授業の未熟さがあると思うのですが、同時に教師が生徒たちに提示できる価値そのものの力が弱くなっているようにも感じます。スマートフォンで検索しても出てこないことを、生徒に提示することの方が難しいのではないでしょうか。

国語の授業では淡々と文章を読んでいる生徒が、演劇部の活動ではとても楽しそうに文書について意見を交わしている姿を見たことがあります。読みを深めるという点では、同じような学びを扱っているはずなのに。2つの違いはどこにあるのでしょうか。様々な要因を考えることはできますが、主体的に取り組むことができているかどうか、やはりこれが大きいのではないかと思いました。教師が価値を提示するのではなく、生徒が自ら価値を生み出していくような学びであれば、国語の授業でも楽しく文章を読むことができるのではないかと考えています。

2.先生方にとってフレームワーク(ICEモデル)が有効と感じた理由。

まず、フレームワークに当てはめて考えてみることで、学びのデザインを相対化することができます。特に、教科書や副読本がないような授業をデザインする場合、とても役に立ちます。また、汎用性のあるフレームワークによって学びを相対化することで、垣根を越えて学び関わる様々な人と共有することができます。

次に、学びの事前デザインや事後の評価だけでなく、学習中に出てきた意見や考えを受けて、その場で次の問いを生み出すような場合、言い換えれば、学びを深めるための即興的なデザインが求められる場合にも役立ちます。フレームワークがあることで、学びがどういうプロセスをたどっているかを相対化できるからです。

最後に、フレームワークが機能することで、学びをめぐる様々な矛盾が生まれます。主体的な学び、学習者中心の学びといっても、実際の学校では様々な要因から理想通りにはいきません。フレームワークが機能するからこそ、理想と現実の間に具体的な矛盾が生まれます。その矛盾が、教師を新たな発見や工夫に駆り立てる原動力となるのだと感じています。

3.授業デザインに必要な「問いかけ」の具体的な事例(単元やその時の問いの事例)。それを作るために工夫していること。

研究会で学んだ、「Aであるにもかかわらず、Bなのはなぜか?」の問いを大切にしています。もともと、「葛藤」「対立」「矛盾」を学びの核に据えてきたのですが、これらのジレンマから学びを深めるための問いを作るにあたって、「A」と「B」に何を入れるかはとても慎重に考えなくてはならないと思っています。また、「A」と「B」を見定めたうえで、どのような言い回しで問いを提供するかを考えなくてはならないと思っています。

たとえば、古典の授業で「愛」をテーマに「桐壺」を扱うとき、「A」と「B」には「意思的な愛」と「非意思的な愛」を設定することができるのではないかと考えています。このように考えた過程は割愛しますが、「愛」の対立項として「恋」を感覚的に持ってきてしまうと、問いの力が少し弱くなってしまうのではないかと感じました。「意思的な愛」と「非意思的な愛」をそのまま使って、「愛は意思的なものであるにもかかわらず、非意思的でもあるのはなぜか?」と生徒に問うても、おそらく思考は空転してしまいます。そこで、源氏物語の文脈と、我々にとっての「愛」の感覚を踏まえ、「我々は『愛』する人を不幸にしたくない。それにもかかわらず、帝が桐壺を『愛』し続けてしまったのはなぜか?」という問いにしてはどうかと考えました。こうすることで、現代に生きる我々が「桐壺」を通じて「愛」について思考を深めることができるのではないかと考えました。

4.学校や教科を超えて語る研究会を通して気づいたこと。研究会への期待と課題。

学びそのものについて考えることの楽しさに気づきました。これまでも学びについて考えることはありましたが、自らの経験に基づいた帰納的なものだったと思います。研究会で、ICEモデルや問いの構造化という考え方に触れることで、学びについて演繹的に考えることができるようになったと感じています。自分がやってきた実践がどういうものであったか、これからどう変えていくことができるかについて、新たな観点から考えることができるようになりました。また、他教科の先生とも学びについて一歩踏み込んで話すことができるようになったと感じています。自分の授業に新しいものを取り入れるとき、たとえばICEモデルや問いの構造化を取り入れるときに、うまくいかないことがあります。うまくいかないとき、それを取り入れるのをあきらめるかどうかは、事前に何をやるか、事後に何をやるかによってかなり変わってくると思います。新しいことにチャレンジしている以上、うまくいかないのは当然で、いまくいかないという事実をどう意義付けるかが重要です。事前の問いかけや事後の問いかけが機能しなければ、従来の取り組みが正しかったという結論に至ってしまいがちです。この流れに関しては、生徒の学びと教師の学びに違いはないと思うので、主体的な学びへと生徒が変化していくような事例の共有やツールの開発、意見交換は、教師にとっての学びについても有用なのではないかと思います。

 

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