教育フォーカス

 

【特集25】主体的な学びの実現
~「主体的な学び研究会」2019年度活動報告書 ~

エピソード 研究会メンバーのICEとの出会い
聖学院中学校高等学校/元 三田国際学園中学校・高等学校 佐藤充恵

1.「教え込み(教授主体)から、主体的な学び(探究主体)に学びを変える」必要性が高まったと感じる、ご自身の経験。

受験逆算型、テスト逆算型で学んだものは、テストが終わるとすぐ忘れてしまうことが多いように感じていました。それは「知識」ではなく、テストで良い点数を取るためだけに使われている単なる使い捨ての「情報」ではないか?それは学びなのか?学びとは何か?と、ずっと疑問を感じていました。その疑問に向き合うきっかけとなったのが、5年前の学校改革です。当時女子校だった勤務校が校名変更と共学化。女子校時代のモットーである「知好楽」に「21世紀型スキル」を掛け合わせて打ち出されたビジョンが「発想の自由人」でした。その方針を聞いたとき、18歳で瞬間最大学力を迎える時代は終わり、未来の社会で活躍しうる資質を身につける教育へ切り替わったのだと感じました。主体的な学びへの変換の必要性を初めて強く感じた瞬間です。

2.先生方にとってフレームワーク(ICEモデル)が有効と感じた理由。

これまでの一斉授業では、先生が授業の入り口から出口までデザイン、コントロールすることが可能でした。多少のイレギュラーがあったとしてもある程度の予測と準備ができました。経験があればあるほどそれは容易でした。「授業」の主語は先生、「探究」の主語は生徒。主体的な学びとは後者の探究にあたると思います。そのためには生徒自身の「気づき・発見」を軸とした展開が必須となります。しかし、私たちは生徒たちがどのような「気づき・発見」をするのか、すべてを予測することはできません。そのような中で、このICEモデルは、学びの方向性を見失わないための”コンパス”の役割を果たしてくれます。個人的には、熊本県立第二高等学校を訪問する際に作成した「問いを構造化したマトリックス」がとても有用でした。また、主体的な学びを展開するためには、生徒の中に「気づき・発見」が生まれるかがポイントとなりますが、Can Be Mapなどのツールによって、「気づき・発見」の感覚を的確に刺激し、広げていくことができると感じています。また、「答えを見つける」のではなく「答えを作り出す」力の形成を目指すEのフェーズ。ここは、これで良いのだろうか?といつも悩んでいます。ICEモデルは深く理解することを助ける、と聞いたことがありますが、ICEモデルを追求することが、まさに「学びとは何か」を探究する活動そのものだと感じ、苦しいですがそれ以上に楽しいです。VUCAワールドとも言われ、見通しのきかなくなった社会で求められている「自分なりの視点で物事を見つめ、自分なりの答え作り出す力」を育める、ICEモデルにその可能性をすごく感じています。

3.授業デザインに必要な「問いかけ」の具体的な事例(単元やその時の問いの事例)。それを作るために工夫していること。

目で実際に見ることができない現象も、自分の言葉で「そもそも」の話ができるようになることを目指して授業をデザインしています。

たとえば、静電気の授業で箔検電器を使い「帯電棒を遠ざけても、箔が開いたままになるのはなぜ?」という問いかけをします。目に見えない電子の動きを想像して立てた「仮説」を検証する中で、静電気の起こる仕組みや、静電誘導、原子の構造と電子の関係など、生徒たちはこれまで習ってきた知識を総動員します。そもそもなぜ箔は開くのか、そもそもなぜ電子は動くのか、そもそも電子って何か、そもそも静電気とは何か。問いかけによってたくさんの「そもそも」が浮かぶほど、生徒たちは自分の頭と手を自然と動かし、自分の言葉で現象を語ろうとします。そうすることによって、学習したことがその場限りの「情報」ではなく、自在に使える「知識」として生徒の一部になっていくのだと感じました。

質の高い学びって何だろう、という問いに対し「自分がやったことを人に話したくなる学び」と答えた生徒がいました。質といっても様々な視点があると思いますが、私が感じた質の高さとはこの視点だったのだと生徒の言葉から気づかされました。

4.学校や教科を超えて語る研究会を通して気づいたこと。研究会への期待と課題。

その教科における学びを真剣に探究している先生方との対話は、共感できることが多くありました。また、共通のフォーマットで各自が作成した資料をもとに対話をすることによって、良い意味での違和感や壁を感じる(感じさせる)ことができ、習慣化され当たり前になっている盲点に気づくことができました。たとえば「結晶のでき方」について洞察を促す問いをデザインシートにまとめた際、大村先生が「これを英語に直すとしたら…」と考えてくださったことによって生まれた疑問がありました。大村先生の質問によって、今までは疑問に思わなかった点をもう一度考え直し、問いの配置や、問いの意味自体を問い直すことによって、意図や方向性を再構築することができました。デザインシートや他のツールも実践とからめて深く活用し、それを持ち寄って対話したい!と強く思います。

課題があるとしたら、「発想→プロトタイプ→共感」のサイクルを定期的に行える環境としくみをどう作るか、というtechnical issueではないでしょうか( 発想 とは 授業のアイデア、プロトタイプ とは デザインシートなど、言語化したもの、共感 とは 対話すること、とします)。

 

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