教育フォーカス

【特集35】母親、父親、子どもの発達を家族システムの観点から検討する~第34回日本発達学会自主シンポジウム報告

【指定討論1】 

    家族システムの観点から、今後も子どもの発達の検討を

神谷哲司●かみや・てつじ

神谷哲司●かみや・てつじ
東北大学大学院教育学研究科教授

専門は、発達心理学。著書に、『夫と妻の生涯発達心理学』(福村出版)、『子ども家庭支援の心理学』(建帛社)など。

家族システムにおける各種データを考察すべき観点とは?

家族システムとは、「複数の要素が相互に依存し、互いに関連づけられ、一体となって働くひとつのまとまりをもつもの」であり、「その全体は部分の総和以上のもの」と考えています。そして、家族を捉える際には、循環的認識論を押さえる必要があります。
 例えば、子どもが登校をしぶった際、父親が母親の育児を非難し、それを受けて母親が父親の無関心を非難すると、夫婦関係が悪化し、さらに子どもは登校しなくなることがあります。日常的な家族のコミュニケーションが、そのような原因と結果が連鎖する中で維持されているからです(図1)。

図1 循環的認識論 クリックで拡大します

家族システムの考え方は、家族療法やカウンセリングの分野で展開しており、本質的には独立変数と従属変数を用いた研究と極めてなじみづらいといえます。本調査では、家族における循環的コミュニケーションが連鎖する中から、データを切り取り分析しているため、その結果や知見を実際に家族に還元するためには、どのような考察や解釈ができるのか、丁寧に見ていく必要があります。

◎話題提供者への質問
[江見研究員]

神谷:子どもの発達には、夫婦関係や親の幸福度だけでなく、数えきれないほどの変数が関わっています。そのため、なぜ夫婦関係が良好だと子どもの発達を促すのか、より具体的にイメージをした上で変数に落とすことがとても重要です。研究として考える際は、より寄与率の高い変数を取り出し、それをモデル化するとよいのではないかと思いましたが、いかがでしょうか。

江見:時点ごとに一つひとつの発達について見るのではなく、例えば、夫婦関係の心的関係の良好さが、次の時点にどのように影響するのかを分析した方が、研究としての意義があるのではないかと考えました。今回は養育者評定のみを分析しましたが、今後は、子どもに関する項目も扱いたいと考えています。

[大久保特任助教]
神谷:父親の育児時間が夫婦関係に影響を与える点について、父親の職場環境や仕事の種類、就労状況も含めて分析する必要があると考えました。父親の育児時間に着目した理由をお聞かせください。

大久保:子どもの発達を考えたときに、それを規定する要因として、父親の育児時間も1つの影響があるのではないかと仮説を立て、分析しました。今後は、養育スタイルや育児の内容、育児の内容別の時間なども併せて分析したいと考えています。

[則近研究員]
神谷:第2子誕生によって家族システムの在り方はダイナミックに変化します。この家族システムと子どもの発達という観点から、第2子に着目したのでしょうか。

則近:第2子に注目した理由は2つあります。まず、第2子の誕生は、親だけでなく、第一子も変化をしなければならない一大イベントだからです。兄や姉がいる第2子は、コミュニケーション能力が高いという先行研究がありますが、第2子が誕生したことで、第1子の発達にどのような影響があるか疑問を持ったからです。

【指定討論2】 

    コロナ禍における子どもの発達を考える〜今後の展望と活動〜

遠藤利彦●えんどう・としひこ

遠藤利彦●えんどう・としひこ
東京大学大学院教育学研究科教授。同研究科附属発達保育実践政策学センター(Cedep)センター長

東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得後退学。博士(心理学)。専門は、発達心理学・感情心理学。著書に、『入門アタッチメント理論―臨床・実践への架け橋』(日本評論社) 、『臨床心理学スタンダードテキスト』(金剛出版)など。

乳幼児期の子どもの発達に関わる調査の必要性

私は日本発達心理学会の第1回大会から参加していますが、縦断調査が年年増えていると感じます。今回の学会でも、私は青年期以降の発達に関する縦断研究のシンポジウムやディスカッションに参加しました。ただ一方で、乳幼児がどのように発達していくかの実証は十分に進んでいません。
 私たちの研究は、0歳から6歳までの子どもの育ちに環境がどう影響を及ぼすか、その点に焦点化した研究です。今回は家族システムに着目して、3人の研究員から話題提供がありました。特に、則近研究員の発表からは、夫婦関係が良好であること、家事分担ができていること、子育てに否定的な感情が少ないことが、第2子を持つかの意志決定に関わるという重要な示唆を含んだ研究で、今後の政策を考える上でも重要な知見が得られたと思います。
 これまで心理学研究のデータの大半は、西欧の一般的な人たちを対象にしたWEIRD(Western, Educated, Industrialized, Rich, and Democraticの頭文字)文化のものでした。このWEIRD文化は、世界の人口から考えると、圧倒的な少数派であることを認識する必要があります。WEIRD文化以外で、子どもの育ちに関わるデータを得て分析することが、世界規模で子どもの発達を考えていく中でも重要なことだと思います。
 Cedepでは、コロナ禍における親の育児や保育者の保育について調査を行いました。同調査では、抑うつが疑われる親が55%に上ることがわかりました。コロナ禍が子どもの発達にどういった影響を及ぼしているのかを調査研究することも、私たちの役割だと考えています。

 ページのTOPに戻る

 【特集35】母親、父親、子どもの発達を家族システムの観点から検討する
~第34回日本発達学会自主シンポジウム報告
トップページ