教育フォーカス

【特集23】保育の質を高めるために、保育記録の活用を考える

    調査解説:「第3回幼児教育・保育についての基本調査」と保育の質

汐見稔幸●しおみ・としゆき

東京大学名誉教授 白梅学園大学学事顧問 日本保育学会会長。一般社団法人家族・保育デザイン研究所代表理事。厚生労働省「保育所等における保育の質の確保・向上に関する検討会」委員。専門は教育学、教育人間学、保育学、育児学。『さあ、子どもたちの「未来」を話しませんか: 2017年告示 新指針・要領からのメッセージ』(小学館)など著書多数。

社会で子どもを教育していく時代に

汐見稔幸

本調査から、どのような課題が浮かび上がったのかをお話ししたいと思います。まず挙げられるのは、社会の変化です。働く母親が増え、現代の日本社会において保育園は、なくてはならないものになったと言えます。今回の調査では、1~2歳児の半数が就園していることがわかり、少し前では考えられないような結果になりました。次回の調査では、7割ぐらいの数値になるかもしれません。

20年ほど前に、子どもは0歳児から保育園で育てるべきだと話されていた方がいます。世界乳幼児精神保健学会の副会長をされていた小此木啓吾先生です。小此木先生は、2000年頃に雑誌に「3歳まで家庭で育てるべきという時代は終わった。先進国のすべての子どもは0歳から保育園で育ててもらった方が良い」といった趣旨の発言をされていました。

子どもの育ちを家庭だけに任せる時代は終わり、社会全体で子どもを教育していく方向に進んでいます。ただ、0歳児から保育するためには、保育の質がとても重要になります。そうした時代にどのような教育・保育が必要なのか、それを考えるヒントが本調査にあると思います。

0歳児から「意味脳」の育ちを丁寧に見取ることが必要

保育の質を高めるために、園の実態を見ていくなかで私が大切だと感じているのは、子どもの遊びを丁寧に見取ることです。私は、保育所保育指針の作成に関わりましたが、乳児保育に関わる「ねらい及び内容」には、「健やかに伸び伸びと育つ」「身近な人と気持ちが通じ合う」「身近なものと関わり感性が育つ」の3つの視点が示されています。身体や気持ちの育ちの成長は理解しやすいですが、0歳児がものに関わる力がどう伸びていくかはあまり議論されていないと思います。保育の質を語る際に、私はそれが大きな弱点になると考えています。

ものと関わる力は、0歳児のころから2つの側面で発達していきます。1つめは、ものを触れるようになった、引っ張れるようになった、回せるようになったなど、ものを操作する力です。そうした力を司る脳の部位を「操作脳」と言います。この力がどう育っているかは、比較的把握しやすいでしょう。

2つめは「意味脳」です。ものと関わり、そのものの意味を理解したいという力です。これは、「操作脳」のように目に見える力ではないので、保育者は把握しにくいと言えます。そうした、子どもの「意味脳」の成長を保育者が把握するには、子どもを丁寧に観察し、保育記録として残すしかありません。子どもの表情や興味・関心がどう深まっているのかを記録し、それを保育者同士で振り返ることが、次の保育を考えることにつながるからです。

また、本調査では、特別な配慮の必要な子どもが増加し、そうした子どもへの対応について知りたいという声も増えていました。目の前の子どもが、どんなことにこだわっているか、「意味脳」の輝きを上手に記録することが、次の援助のヒントになるはずです。保育記録を丁寧に行い、保育者同士でその意味を吟味していくことが保育の質を高めるために、とても重要です。本日は、そのことについて語り合えたらよいと思います。

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