教育フォーカス

【特集23】保育の質を高めるために、保育記録の活用を考える



    調査報告:「第3回幼児教育・保育についての基本調査」からみえること

持田聖子●もちだ・せいこ

ベネッセ教育総合研究所 学び・生活研究室 主任研究員。「第3回幼児教育・保育についての基本調査」を担当。生活者としての視点で、人が家族を持ち、役割が増えていくなかでの意識・生活の変容と、環境による影響について調査・研究を行っている。

家庭と教育の変化について

持田さん写真

私からは、ベネッセ教育総合研究所で行っている調査をご紹介し、園を取り巻く環境変化や、園に求められる保育の質について考えるきっかけを提供させていただきます。

まず、家庭や教育の変化について紹介します。東京大学Cedepとベネッセ教育総合研究所による共同研究「乳幼児の生活と育ちに関する調査」では、0~1歳児期の子どもの約2割が就園していますが、1年後の1~2歳児期になると、子どもの約5割が就園していることがわかりました。仕事を持つ母親が増え、就園年齢が低年齢化していることが考えられ、園が子どもの成育環境としてより一層重要な役目を果たしています。

また、保護者にとっても、「園の先生」はとても重要な存在です。教育やしつけの情報源として「園の先生」を挙げる保護者は多く、頼りになる相談相手と言えるようです(ベネッセ教育総合研究所「第5回幼児の生活アンケート」2016)。

次に、教育の変化について説明したいと思います。文部科学省では、幼児から高校生まで一貫して育成すべき力として、3つの資質・能力を定めました。それを受けて、2018年に幼稚園教育要領、保育所保育指針、幼保連携型認定こども園教育・保育要領が改訂(定)され、「幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿」が示されました。

保育記録の活用が保育の過程の質向上の鍵に

こうした家庭や教育の変化を踏まえ、2018年11月に実施した「第3回幼児教育・保育についての基本調査」の結果をご紹介したいと思います。

幼稚園・保育所ともに、開所時間は、2012年に実施した第2回調査と比べて、長くなっていました(1)。幼稚園では、預かり保育を行う園が増加していることが関係していると言えます。また、私立幼稚園の4割が、2歳児を受け入れていることもわかりました。園に早期から接点を持ってもらい、自園の良さを理解してほしいという思いもあって、園は早期からの入園受け入れを行っているのではないかと考えられます。調査でも、運営上の課題として、「新たな園児の獲得」が幼稚園の課題として挙げられています。

また、今回の調査では、過去の調査と比べ、障がいや特別な支援を要する園児がいる園が増えていたことがわかりました。園の先生方には、幅広く、深い専門性がより一層求められていると言えます。

1.園の開所時間 ※図をクリックすると拡大します

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(出典)ベネッセ教育総合研究所(2019)第3回幼児教育・保育についての基本調査

さて、「保育の質」はさまざまに定義されますが、秋田・佐川(2011)は、子どもの発達に対して、保育の過程の質の要因と家庭の要因が直接的に作用すると位置づけています(2)。保育の過程の質の要因は、保育者、保育者と保育者、保育者と子どもたちとの相互関係や、保育・教育の方法、カリキュラム等であり、これらは、変える、良くすることが可能な要因と言えます。また、家庭も子どもの発達に大きな影響を及ぼしますが、保育者と家庭の連携・協力が、子どもの「学びに向かう力」の発達に関連するということも、ベネッセ教育総合研究所の過去の調査で明らかになっています。この相互関係をいかにつくっていくかが、保育の過程の質を向上させるために重要ではないかと考えています。

2.子どもの発達に関連する保育の質と要因 ※図をクリックすると拡大します

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(出典)秋田・佐川(2011)保育の質に関する縦断研究の展望 東京大学大学院教育学研究科紀要,51, 217-234より。秋田訳,Litjens(2010)を元にベネッセ教育総合研究所で作成。

この定義を踏まえて、次にご紹介するのは、保育実践上、運営上の課題です。園の種類にかかわらず、最も多く挙げられたのは、「保育者の資質の維持、向上」でした(3)。ついで「保育内容・方法の充実」が挙げられましたが、いずれも保育の過程の質に関連する項目であると言えます。そして、保育者の資質の向上のために最も必要な手法として挙げられたのは、「保育者同士が学び合う園の風土づくり」でした(4)。保育の過程の質として重要な、良い保育活動の実践のために、園内、クラス内でできる一つの手段として、保育記録・ドキュメンテーションは有効であると考えています。保育記録・ドキュメンテーションにより、子どもの活動や変化を可視化することは、より良い保育活動につながり、保育者同士が学び合う園の風土づくりや、保護者との連携にも欠かせないことだと考えています。こうした背景から今回の研修会では、保育記録の活用の可能性について一緒に考えていきたいと思います。

3.保育実践上、運営上の課題 ※図をクリックすると拡大します

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(出典)ベネッセ教育総合研究所(2019)第3回幼児教育・保育についての基本調査

4.保育者の資質向上のために必要なこと ※図をクリックすると拡大します

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(出典)ベネッセ教育総合研究所(2019)第3回幼児教育・保育についての基本調査

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