教育フォーカス

 

【特集17】学生の学びと成長のプロセスを可視化する
第25回大学教育研究フォーラム 参加者企画セッション 開催報告
2年半の追跡調査に基づくアサーティブプログラム・アサーティブ入試の現状と課題 ~多面的な評価に基づく選抜の効果とは~


■報告3 入学後の教育改革をどう進めるか?  資料

追手門学院大学 副学長 原田 章


いま、アサーティブのデータをご覧いただきましたが、この結果を受けて、次はどんなふうに教学政策に活かすのか、というお話をさせていただきたいと思います。

まず、本学が抱える教学上の課題として、教育理念が「独立自彊・社会有為」といいまして、簡単に言いますと「自分でがんばって社会の役に立とう」となります。その理念に基づいて本学には「自ら行動し、自ら考え学ぶ学生」を育成したいという教育目的があります。その際、多くの大学でもいろいろ悩ましいところかと思いますが、今までの「教えたい内容を教える」というスタイルではなく、「学生がどうなりたいか」「学生がどのようなキャリアを描くのか」から逆算して考えていくような大学教育への転換を模索しています。特に学生主体の学びへの転換が大きなテーマになっており、学生が何を学ぶのか、それを学んでどうなっていくのかを、学生が身につける内容に対して大学教育のカリキュラムで責任を持とう、ということが目標になっています。

その目標を達成するために現状の課題として、学生の側面としては、動機づけを重視した学習意欲の向上があります。先ほどのデータにもありましたが、学びの意欲が最初は全体的には高いが、それが持続しないということが誰のせいなのか、という問題があります。教員としては、力の育成から考える授業スタイルの模索をしています。どうしても、学問領域の枠組みで、あれも教えたい、これも教えたい、そして授業で一生懸命喋って先生の満足度は上るのだけど、学生が何を身につけたのかには無関心になりがちです。そうならないためにどうするか。これが課題です。次に、制度と組織の問題として、学生の成長をどのように見せたらいいのか、学生がそれを自分で見て、自分でここを学ぼう、次はこう進もう、ということを考えられる仕組みはないのか。教員が授業をよくしていこうと意欲を持ったときに、大学としてはどういう支援ができるのか。これも重要な課題です。このような問題を解決するために、アサーティブ入試の取り組みから得られた成果が、直接的にも間接的にも、ヒントになると私は考えています。

アサーティブ入試の研究から得られた知見として、学びの目的、特にキャリア意識を明確に持つことの重要性があると持っています。学生が、高い意識を持って学ぼうとしている、しかし残念ながら行動までは至っていないという結果なのですが、それは恐らく、大学の組織と教員の方に問題があって、それを改善すれば、もう少し勉強してくれるのではないかと思っています。

本学の教育課程は、目的意識をもってもらう仕組み、学びの意欲に応えるカリキュラム体系とは言えません。しかし、そういう観点で教育を考えてください、という問いかけは、教員に発信しています。本学には、全学教授会という全教員が集まる教授会があります。その場で、どういう教育を教員に期待しているかを副学長が語るように、というお題を頂いたときに使用した資料が4枚目のシートになります。

目標は、学生に主体的な学習者になってもらい、卒業後に独立自彊・社会有為の人材になってもらう。社会のどのような場面で活躍できるかを想定して、教育を考えてください。そのために学生はどんな力を身につける必要があるのでしょうか、どんな知識を習得するのでしょうか、入学時点からどのようなルートで学んでいけばいいでしょうか、基礎力の問題か学習習慣の問題なのか、などを考えてください、とお伝えしました。その際、各学部に人材養成目的がありますので、それに合致した教育になっているのかも考えてください、と発信しました。

この図をお示しして、各学部で行うカリキュラム改変に反映してほしい、ということもお伝えしました。ただ、大学の経営者からは短期的な成果も求められます。そこで、アサーティブの取り組みからヒントを得て、スタートアップ教育ということを考えています。それは、従来の入学前教育と入学時オリエンテーションと初年次教育を1つの流れとして構成しようとするものです。その際の到達目標としては、「1年生秋学期に、キャリア意識を持って自分の学びを検討できる」です。具体的に言いますと、「俺が取る科目はこれだ」ということが自分で理解できるようになってもらうということです。そのためには、1年次春学期までに何を伝えないといけないか、ということを議論しています。

その取り組みの一つとして、これはもう始めることですが、4月1日の入学時オリエンテーションの内容を変えます。今までのオリエンテーションでは「これをやってはいけない」とか「あなたの学科のカリキュラムはこれです、こんな授業があるよ、あんな授業があるよ」という話をしていました。これを入学時の段階で、「あなたは4年間をかけてどんな人材になるのか」という問いかけをするようなオリエンテーションに変えます。その際に、やはり身近なロールモデルが必要ですので、実際に大学で活躍している学生、卒業して立派に活躍している社会人に話をして学生と対面してもらい、4年後のイメージを持ってもらう取り組みを進める予定です。

そしてもう一つ、入学前教育として、年内入試の合格者を対象とする研修型のイベントをやっています。研修の内容は、仲間作りや学習計画づくりなのですが、それを少し変えようと思っています。一つは、入学決定時期によって、実施する内容を変えようと思っています。アサーティブ入試や、指定校入試は、基本的には第一志望傾向が強いため、大学に対するエンゲージメントがそれなりにあります。そこで、こういう入学生には、学習習慣をつけさせる教育をしようと考えています。これに対して、第2志望以下の傾向が高い一般入試等は、「こんな大学に」と言わせないために、「『こんな大学』ちゃうぞ、君らが思っている追手門学院大学のイメージとは本当はちがうんだぞ」ということを伝えるような入学前教育をやらないといけないだろうと考えています。学びの必要性や、大学への帰属意識を高めるような内容の教育は、1年生に入ってからの授業で、「追大UI論」というユニバーシティ・アイデンティティを教える授業があるのですが、それを先出しして入学前に教えていく取り組みを今後実施する予定です。

そういう点から考えますと、今後やっていかなくてはいけないことは、アサーティブの成果を学内に技術移転していくことがあります。本日の発表にあった量的研究についても、学内共有を進め、うまく見せていくこと、アサーティブ入試の先輩が後輩をサポートする、学生同士が上下関係でつながっていける仕組みをきちんと作る、ということがあります。

そして、これが一番難しいのですが、教員には事あるごとに「先生が一人で授業をする時代はもう終わりました」と伝えています。教員が協働して学習内容を考えたり、教員の協働で学部全体のカリキュラムデザインを考えたりしていくことが必須になってきています。そのために、1科目1担当から1科目複数担当へ変えていく、初年次科目や専門基礎科目で教員が協働しなければいけないような展開をするといった取り組みも行っています。先生方はあんまり好きそうではないのですが、みんなで「何を教えたらいいのか」を話し合ってもらうことを、制度として進めています。

 

 

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