教育フォーカス

【特集33】大学教職員向けウェビナー「大学生の主体的な学びを促す授業・環境のデザイン」開催リポート

パネルディスカッション第二部

6名の活動報告及び課題意識を発表後、関西大学の山田剛史教授のファシリテートによるディスカッションで、受け身で目的意識の希薄な大学生に対して、教育現場はどうすればよいのか、活発な意見交換が行われました。

山田剛史

関西大学教育推進部教授
山田剛史(ファシリテーター)

専門は、教育開発(⾼等教育)×成⻑⽀援(⻘年⼼理)。島根大学講師・准教授、愛媛大学准教授、京都大学准教授を経て現職。現在、初年次教育学会理事、⼤学教育学会代議員、⽇本アカデミック・アドバイジング協会副会⻑,⾼等教育質保証学会評議員。⽂部科学省「⼤学教育再⽣加速プログラム」委員、⽂部科学省「知識集約型社会を⽀える⼈材育成事業」プログラムオフィサー、東山中学・高等学校「土台力教育開発センター」教育顧問など。

大学人自身がどう主体的に取り組むかを共有したい

山田 「主体性」の定義を「自分の頭で考え、選択判断する」という認識レベルだけでなく、「責任をもって行動する」までをセットと捉えた場合、まだまだ学生が主体的であるとは言い難いのではないでしょうか。学生の主体性が育まれにくい風土は、大学教育や中学校・高等学校での教育、さらには社会構造全体の要因からくるもので、決して学生だけの問題ではありません。
 本日は、基調報告で示された平均的な教育・学生のデータと、主体的な学生・教員の代表ともいえるパネリストの皆さんの実践・声とを重ね合わせた議論を行います。大学が主体的な学びの場となるために、私たち大学人自身がどのように考え、主体的に取り組むかを共有したいと思います。

仲間が増えていく楽しさが、主体性を引き出す

山田 慶應義塾大学の平田さんは、学業のかたわら起業して、高校生の探究活動のレポートを大学生が添削するサービスを行っています。なぜ、このサービスで起業しようと思ったのでしょうか。

平田 私は、AO入試(現、総合型選抜)でSFC(慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス)の環境情報学部に入学しました。高校時代、AO入試専門の塾に通いましたが、そこでは本人の興味と関係なく、大学に合格しやすそうな研究テーマを推奨していました。私は中学2年生から打ち込んできたプログラミングや、高校時代の探究活動の経験を進路に生かしたいと考えていたので、塾の方針に違和感を持ちました。そうした経験もあり、高校生には自分のやりたい探究活動に打ち込んでほしいと考え、クアリアを立ち上げました。

山田 AO入試の塾での体験があったからこそ、SFCに進みたいという熱意が湧き、起業したのですね。岡山大学の浅野さんは、多彩な活動に取り組まれていますが、最大のモチベーションは何でしょうか。

浅野 「私がやらないで誰がやる」という気概と、仲間が増えていくことの楽しさだと思います。コロナ禍の影響でオンラインでの交流が多いことは残念ですが、今までと同じ手法が使えないからこそ、どうすれば効率よくできるのかと、みんなで試行錯誤しながら進めていくのは楽しく、困難な環境でも工夫して乗り越えようとする意識が強くなったと思います。

子どもたちが一歩を踏み出す仕掛けが必要

山田 諫早高等学校の後田先生のお話では、平均的な生徒に合わせてプログラムを構築するという話が印象的でした。一方で、個別最適な学びや、学びの多様性の重要性が指摘されている中で、どのように全体の学びをデザインされているのでしょうか。

後田 よい意味でとがった生徒を伸ばし、さらに平均値の生徒を底上げするために、生徒が発表や活動する場を公式、非公式で数多く設けています。例えば、文化祭や学年集会で、生徒が発表する機会をつくることにより、周りの生徒が刺激を受けて自分も一緒にやりたいという気持ちになることがよくあります。
 とがった生徒とそうでない生徒の違いは、自分で一歩を踏み出せるかどうかだと思います。ためらっている生徒の背中を押す役割は、教員には難しく、先を進む生徒の伴走やサポートがあってこそ、生徒は一歩を踏み出せます。生徒同士が刺激を与え合う仕組みをつくることで、学びの輪が広がっています。

山田 諫早高等学校では、外部の方たちとの連絡や登壇交渉まで生徒自身が行うということでした。先生方には相応の覚悟が必要だと思いますが、どのようなことを意識されていますか。

後田 グローバル講演会では、アポ取りの期日を決め、そこまでに交渉が成立しなければ、総監督の生徒が責任を取って全校生徒に謝罪し、交渉が失敗した経緯を説明することにしています。今までグローバル講演会は14回行い、開催日の2週間前まで決まらない年もありましたが、すべて実施にこぎつけています。

山田 笛吹高等学校の廣瀬校長の実践からは、主体的に探究活動に取り組む生徒の姿が見えてきました。生徒が主体性を発揮できるよう、教員には何が求められますか。

廣瀬 まず、探究活動の目的をしっかり伝えることです。これからの社会で求められる力は何かを熱く伝え、同時に教員にも聞いてもらうことで、教員間の目線を合わせることも重要です。

山田 保護者や大学関係者の中には、探究活動に力を入れると基礎学力が低下するのではないかといった懸念の声もあります。それについてはどうお考えですか。

廣瀬 探究活動を進めるうちに、生徒は、探究には教科学力が必要だと気づきます。例えば、英語でお礼の手紙を書きたいと思えば、英語の勉強をするというように、おのずと教科横断的な学びが生まれます。探究が深まれば教科学習の意欲が相乗的に高まることを、保護者や先生方にも伝えて、協力を求めるようにしています。

社会での活動は、すべてアクティブ・ラーニング

山田 桜美林大学の今村さんは、高校生の探究活動の伴走や高大接続に取り組まれてきました。探究のサイクルを回す上で大切にしていることは何でしょうか。

今村 今回参加された皆さんは、自ら動く探究人材だと思います。しかし、すべての生徒が問いを持ち、主体的に探究のサイクルを回していくわけではありません。全員参加のカリキュラムで、活動を生徒に委ねると、主体的な選択として「何もしない」こともあり得ます。一方で、強制してしまうと、受け身の姿勢で取り組む生徒もいます。そうした「主体性のわな」をどのようにして克服するのかが難しいところです。
 解決に向けたヒントは、後田先生や廣瀬校長のお話にあったように、外発的な動機づけから探究への意欲を引き出していくプロセスと、学校行事や放課後など、自由な表現の場を上手に組み合わせることだと思います。大学でも、正課と正課外が連動した学びをいかにデザインするかが重要かもしれません。

伊藤 私自身は、探究のマインドがない社会人というのはあり得ないし、社会の活動はすべてアクティブ・ラーニングだと思っています。そこで、大学時代にアクティブ・ラーニングや探究活動を体験することは、社会でアクティブに働くための大前提であり、大学はそうした場を学生に提供する必要があると考えます。まずは、どのような人材を育成するのかといった目標をしっかり設定し、その実現のためのプログラムを少しずつでも整えていくしかないと思います。

今村 ベネッセ教育総合研究所の調査でも指摘されていた通り((図9))、高校で新学習指導要領が実施され、3年間、探究活動に取り組んだ高校生が大学に入学する2025年度は、ターニングポイントになると思います。
 目的意識を持った学生が大勢入学してきた時、それを受け止めるカリキュラムとなっているのか、大学はもっと意識しなければなりません。

【図9】高校時代の学びの様子(基調報告資料 10P) クリックで拡大します

伊藤 平田さんは、中学校時代からプログラミングに熱中し、浅野さんは地域貢献への想いがあった。それぞれ心に燃えるものを持っていたのが、大きいのではないでしょうか。原体験を具体的な課題と結びつけて、行動を起こせる学生がいる一方、きっかけを与えてくれる人や伴走してくれる人が必要な学生もいます。
 ただ、心を熱くさせるような原体験は、個人の能力とは関係なく一人ひとりの中にあり、それが表に出ているか、出ていないかの違いでしかないと、私は考えています。単にカリキュラムを整えるだけではなく、一人ひとりに寄り添って内なる情熱や想いを引き出すことが重要だと、2人の学生の話を聞いて思いました。

「やる気」は実際にやってみて、初めて湧くもの

山田 学生の心に火をつける際に意識されていることはありますか。

伊藤 具体的な仕掛けとしては、私も含めて教員が学生と1on1のミーティングを頻繁に行い、一人ひとりの声を聞く機会をたくさん設けています。また、寮生活を通して、「みんなが頑張っているから自分も」といった刺激を与え続けることも重要です。いずれにせよ、他者とたくさん話をすることで、心の奥底から熱意やこだわりが湧いてくるのだと思います。

廣瀬 高校の探究活動でも、頑張っている学校は、生徒と教員の1対1の話し合いを大事にしています。平田さんや浅野さんの話をうかがっても、自身の課題が言語化されていることが、社会に参画する意欲に結びついていることを強く感じます。

伊藤 私は、若い頃、それほど好奇心は強くありませんでした。しかし、多くの人と接して様々な体験を重ねる中で、「すごい」「やばい」と声を出しているうちに、自然と好奇心が湧いてきました。学生にも普段の会話で「あの時どう思った?」などと問いかけ、感情を言葉にさせるようにするなど、あえて声を出す訓練をしてみるのもいいかもしれません。好奇心が湧いたところで具体的な問いに落とし込み、探究などの枠組みの中で取り組むうちに、学生は面白さを見いだし、主体的になっていくのではないでしょうか。

山田 やる気というものは、最初からあるものではないのかもしれません。やってみて何らかの反応が返ってきて、その上でよかった、できなかったといった体験が、次のモチベーションにつながる。やる気がないからできないのではなく、行動しないとそもそもやる気が湧かないのかもしれません。

伊藤 おっしゃる通りだと思います。主体性はやってみて初めて湧くものだという認識を、もっと教育現場で共有すべきだと思います。

山田 主体性はアクションやアウトプットと不可分の関係にあり、教育現場でそういう機会をどれだけつくれるか、魅力ある選択肢を提供できるかが重要だということですね。

本日はありがとうございました。

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